Entries from 2015-04-01 to 1 month

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海へ行き 骨を集めていた 鳥の骨ばかりが打ち寄せられた砂浜は ひどく生臭かった 肉や内臓は多分 何かに食べられてしまったのだろうが まだ羽毛がところどころに残っていて かろうじて形を保っている骨を拾っては 布の袋に入れて また次の鳥の骨を探し求めた…

74

改札を出る前から動悸は激しくなり 歩くのもやっとになった 最後にこの駅を降りたのは ある訣別のためだったので もう二度と来るはずではなかったのだ呼吸が乱れ 真っ直ぐ前を見られなくなり始めたとき 遊技場と飲食店しかない駅前商店街にも 世界の恵まれな…

73

一年前 乖離した人格は寝台の下へするすると潜り込み それきり出てこなかった 僕は指一本動かせない程疲弊していたからどうにも出来なかったけれど あいつは何処へ行ってしまったんだろう

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極東の島に暮らす兄夫婦が子供を授かったという報せを受けて 私は妹とふたりで祝おうとケーキを買いに行ったが どの洋菓子店もショーケースは空っぽの開店休業状態で せめてお祝いの手紙を送ろうと文具店へ行ったら 親父はほくほくとしながら 余所の国から来…

71

融け合わない肉体は 重なっても 絡まっても 混じり合わないから どのみち独りきりなのだ 悲しいだろうか? もう充分!

70

濁りゆく部屋の窓はもう錆びついて開かないそれがどうしたというの

69

上書き保存の記憶も 削除して新規作成する記憶も 大して変わらないのかもしれない 僕は何もかもどんどん忘れて 彼女たちの甘い香りや 柔らかな肉の間にある内臓の熱さだけを 覚えている

68

幼い頃に読んだ漫画のひとコマひとコマがやけに鮮明に とても恐ろしい絵ですら 懐かしい景色のように 時折ふと蘇ることがある漫画は買ってもらえなかったので 図書館や友人宅 喫茶店 至るところで読み漁っていた 性交シーンばかり描かれている週刊誌の漫画も…

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生きていて良かった と 思う以上に どうしてあの時死ななかったのか と 思う瞬間の方が多くて たぶん一生 死を思いながら生きていくのだろう 我ながら辛気臭くて嫌になる (そしてまた死にたくなる) けれど あの人が生きていて良かった いまはそれだけで充分

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早朝 浅い眠りから起こされると顔も洗わないうちに 着の身着のままで 助手席に乗せられた だんだんと灯りが消えてゆく街を走り やがて空がはっきりと目醒めて 自らの色を思い出したころに 築地に到着し ふたりで拉麺をすすった 焼豚が山盛りになった豚骨拉麺…

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髪を切った 何も吹っ切るものはない

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生けたい花が無くて造花を硝子瓶にさしている 花屋の店先にある花が気に入らなくて どれも これも 駄目で 早く庭の薔薇が咲けば佳いのに花壇の草をむしる 雨上がりの地面は緩み するすると抜けて楽しいので 私は爪に泥が入るのも厭わず夢中で草をひく 何年か…

63

窓を開けると爆竹が聞こえ 硝煙の匂いがしたがらん がらんと 大きな鈴 或いは銅鑼のような 不思議な音が鳴る楽器の姿を 未だに見たことがない 此処に住んでもう何十年も経つのに暗い外を見れば 遥か遠くに松明が燃えていた 男たちの掛け声は風に乗り 余所者…

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傷つけられてただ泣くよりも 恨みたいし 出来れば美しい方法で あなたの心に傷を遺してゆきたい 雅やかに 深く 鮮やかに 鋭く

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通り過ぎてゆく光が幾千本もの線に見える眠らない街で あなたの瞳はいつも穏やかだった刺激だけが愉しみになって久しい

60

壊れそうな程愛していたはずだった 事実壊れた 壊されてしまった わたしの尋常 平穏な日常 安定した情緒 損なわれて救いを求めた先に 神も仏も無かった 壊れてしまった人格で 何を祈れば良かったというのか いいえ なにも 誰も愛してなどいなかった 欲しかっ…

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オスカル オスカル 初めておまえの叫びを聴いた時から 私の心臓は 太鼓の音を打つようになったよ 海水浴場で 沸騰酸を舐めた日のこと きっと忘れない 戦争は見境無く かたちあるものも ないものも 壊し 好いひとも 悪いひとも みな死んでしまった けれど何も…

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ある種の女の子たちは 短くも 若さと美しさの両方を手にしている季節にいることに気付かないで それを知っている 悪いおとなたちに 摘まれてしまう しかも彼らは 花屋で一番きれいな花だと言わんばかりに 選んだかのような気持ちにさせるから 周りの男の子た…

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「男女間で友情が成立しているということなのかしら」私は受話器を持たない方の手で絨毯についた毛玉を毟りながら言った「肉体関係があるのに」と電話の向こうで彼が笑う声がした 「他の人より少しだけ詳しく知ってるのよ」あなたの性器のかたちや 絶頂に至…

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シェルブールの雨傘を観て 唯一救われたのは マーガレットが これで伯母さんの遺したものは全て無くなってしまったわね と哀しげに言ったことに対して ギーは これからつくる未来ぜんぶが遺してくれたものだよ というようなことを答えたくだりで もういない …

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旅行者の部屋は 何時でも旅立つ準備が整えられている 直ぐにでも旅するように生きてゆきたいと 言った私に うっとりしながら 素敵だと言った君との間にある マリアナ海溝のように深い 理想の違いが いずれふたりを別つことは 火を見るよりも明らかだった つ…

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あなたの肩では銃は撃てないと言われ 桜は散り 私は地下室で働くようになった 陽の当たらない小部屋では何もかもが秘密裡に行なわれる 繰り返される暴力的な宴の日々は女たちを消耗させ 互に蔑み 憎み合うことでしか自らの存在を認識出来ないようになって 苦…

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ラ・セーヌ あなたのいる場所が 何処であろうとも その流れ 清くあれ 転がる石は滑らかに 砕け散るまで 海を目指す

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サヴァンナの真ん中で稲妻に打たれたような衝撃

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四桁までの数字はそれなりに憶えられるので 今でも車のナンバーを見れば誰かすぐにわかるし 今日があの人の誕生日ということも憶えている清らかな流れに居ますように

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子供の頃 バスに乗って鉱山へ行き鉱石採集をしたことがある かつては銅が採掘されていた山で 50年前に閉鎖された今では僅かに面影が残るばかりだ青草の茂みを掻き分け 転ばないように気をつけて小岩が転がる斜面に辿り着くと 我々一行はそこに屈み込み ショ…

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花霞が白く燃えるのを眺めながら 葡萄の雫を舐めた 降り出した雨で翌朝には鎮火するだろう 芽吹き始めた緑は 幸いの報せなのだ いつでも私信: 拝借したライターをお忘れになりましたので、いつかお返しする所存です 何とかして...

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昔 裏の家に神様が住んでいた 木造平屋の小さくて粗末な造りの家で その傍には古い桜の樹があった 日に片手で数える程度しか汽車が来ないちいさな村だったが 月に一度か二度 大勢の人々が神様の元を訪れた その時ばかりはまるで祭のようであったが 誰もが粛…

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橋の下で 絶望を温い麦酒に溶かして飲み込み 待ち侘びた幸福な思い出をつくる あなたとはかつて この橋の上で出会った 四月は短い花の命を歓び 嘆く為にある 最も美しい月だ

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何処へも行くあてがないから 此処にいるだけで 理由なんて何もない その時に向けて 準備を整えなければならないだろう 残された時間は短い痛みは平等に与えられている人格が破綻していると言われても わけがわからず 曖昧に笑うより他にどうしようもなかった…