Entries from 2018-12-01 to 1 month

1415

普段から掃除をするのは好きなので 今日は苦手な片付けをした かなりの数の書類を廃棄して それでもまだ置き場所が足りない もう一生使うことのない 二度と目を通すこともない書類の束に住まいを脅かされるなんてうんざりする 期限の切れた案内 古い広告 入…

1414

足元にまとわりつく水に似た空気 それは淀むことはなく 激しく流れたり 冷たかったりして 澄みきっている

1413

ぜんぜん別の 国籍も年齢も違う男の子から 同じ作家の作品を薦められる世界で 彼らを魅了し また私も魅了させられた 不思議な引力 わたしはいつか彼らと寝るかもしれないし そうしないかもしれない いずれにせよ特別な日になるだろう 今日も 昨日も 明日も

1412

ニルゲンドヴォに雪が積もった ホフヌンクにも降った フリーデンは凍てついてあちらもこちらも真っ白な霜ばしら 川べりの林檎だけが紅く燃えている どんな木枯らしもその実を振り落とすことができなかった でも それも時間の問題

1411

彼女からの電話久々に聴いた声は 相変わらず低めで囁くように話したけれど 少しだけ弾んでいた 森の木かげでリスがスキップをしているような そんなところ見たことないけれどたわいもない話をいくつかしてから受話器を置き 窓の外を見ると雪が降り始めていた…

1410

新しい髪型を褒められたので きっともう変えられない 飽きてしまうまで ずっとこのままにしたい生まれる時代と国を間違えたわたしは フェルナンダ・リーになれなかったので 髪の色をピンクにすることがないまま大人になった 別に何歳になってもどんな髪の色…

1409

我が家では24日の晩にサンタクロースが来ていた よそのことは知らない 結構大きくなるまで来てくれていて 何年か前 最後に持ってきてくれたのは酒瓶だった 好きなお酒だったので嬉しかったのに そのあと身体を悪くして あまり飲めなくなってしまい それから…

1408

犬も猫も欲しいとか 飼いたいとか思ったことがない 世話をするのが手間というより 命を易々と扱うのが怖いから ましてや買うなんて出来なかった きっと死なせてしまうから 殺意がなくても不注意で殺して簡単に死ぬ 鳥も ハムスターも なんでもそう知らない間…

1407

師走の街中へゆくと クリスマスツリーの奥のワゴンにはもう門松や注連縄が並べられていた この国の見慣れた不思議な光景が好きだ とにかく季節商品を売り出すのはともかく 四季を大切にするのは良いことだと思う 掃除用のワックスを買ってきたけれど 天気が…

1406

耳元で話す彼の台詞は 適切な言葉を選び 正しく発音され 少しだけペパーミントの匂いがして わたしはそれが嫌いじゃなかった霧雨のなかを歩きながら もうずいぶん前に一度だけデートをした男の子たちのことを思い出して みんな 喧嘩して別れたわけではないけ…

1405

一週間のうちに起きたことを思い出しても 特に記すこともなかった 今日も雪は降らなかったし 寒くもないから 息は白く曇らない 僕は駅から家まで傘をささずに雨のなかを歩いて 何年か前に同じように濡れながら一緒に歩いた友達のことを思い出そうとしたけれど…

1404

なんの理想も意思も目的もないけれど なりゆきに任せて てんで知らないところへ来てしまった このまま許されるはずなんてないここ最近 店頭で尋ねても(わからないときはすぐ人に訊いてしまうのだ)専門家ではないのか それほど気のない雇われ人なのか あま…

1403

いちご水と聞くと思い出す女性がいて それは飲み物ではなく歌の名前のことであり 彼女とその話をしたのは まさにピンク色の炭酸水を飲んでいたときだった あのピンク色の炭酸水が何味だったのか 苺ではなかったはずだ 確かめようにももう店が無いからわから…

1402

普通になるためのたゆまぬ努力 人並みに暮らし 生きてゆくための不断の努力 惜しむな!立て!走り抜け!冷えた空気が喉に刺さり 脇腹が痛みだす 昔っからそうだ おまえときたら根っからの不精者で… なんでもお尻に火がついてからでなきゃ始めないんだ でもそ…

1401

寝坊した日 学校の扉がきちりと閉じられていたので 結局こっそりと窓から入った 授業が一階の教室で行われていたのは幸運だったと思う けれどほとんど授業を受ける時間はなく 食堂で昼ごはんを食べるだけで帰った マッシュポテトと薄いハンバーグ こけももの…

1400

あなたの名前を忘れてしまいたい 最後に会った日も 初めて出会った日も 嵐の最中だった 夏の激しい暴風と そのあとに照りつく陽射しの暑さを わたしはいまだに思い出す あなたの顔を忘れてしまいたい もう ずいぶん前のこと あなたはまるでダビデ像のように…

1399

改めて考えるほどのことでもないけれど 好きでもないひとと結婚するなんて時代錯誤な話だと思うのに 暮らしのためと言うならば なんて悲惨なことなのだろう 或いは新しい愛と巡り会えるかもしれないのだから それほど悪いことでもないかもしれないにせよ

1398

アナウンサーが深刻な表情で 今朝はこの冬一番の寒さでしたと告げると映像は白い雪国へと変わったユメちゃんが死んだのは もう10年ちかく前の冬の 一番寒い日だった どんどん更新されていくこの冬一番だから いつだったかわからないのだけど とにかく冷え込…

1397

あの人のことを考えている時間は健やかで みずみずしい白い花のように甘い グラスのなかでシードルの泡がぱちぱちと弾けて 夢だったらいいのにと思う 仔犬のように人懐っこい笑顔 よく晴れた冬の空のように濃い碧色の瞳 イヴェールでむかし官僚の愛人だった…

1396

朝目覚めると 遠くの山並みは真っ白に雪化粧を施され 庭の芝生はグラニュー糖を振りかけたかのように霜が降りていた 日の出の時間は過ぎているけれど 山の際からまだ昇ってきていないので 黎明の空はただただ静かに広がっていた なるほど 冬はつとめてとは一…

1395

本来であればきちんとスパイスを揃えて とっておきの赤ワインを使い 琺瑯のミルクパンでことこと煮込みながらつくるのが正しいやり方だけど 近年ではめっきりずぼらになってしまったのでグリューワインのボトルを買った マグカップに注ぎこみ 電子レンジで温…

1394

美術を学びたい と申し出たときに 辞めときなさい 食えないからと却下されたのは良い判断ではあったけれど 語学ならどうなるというわけでもなかった これといって取り柄もない 器量も愛想もよくない女ならせめて試験は頑張って 名の知れた大学に入り なるべ…

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遠くにある民家の二階の窓が真っ赤に見えたので 燃えているのかと思ったら 夕陽の照り返しだった もちろん煙も立ってはいなかったいくつかのクラシック名盤と呼ばれる曲が収録されたCDを借りた ルービンシュタインが演奏するショパンのポロネーズは誰か別の…

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繁華街へ出ると 街中すっかりクリスマスの飾りで賑わっていた この国で初めてクリスマス商戦を手がけたのは何処の店だったか知らないけれど 本来の意味を失い ただ売上を伸ばすという純然たる意志のもとに イルミネーションを点灯させたり 大きなクリスマス…

1391

白い傘をさして歩く男の人たちの列を追い越して みぞれ混じりの雨が降る大通りを早足で歩いて駅舎のなかへ入ると 暖房はついていなかったけれど 屋根があるだけで暖かく感じられた 濡れた髪とコートをハンカチで拭い 手鏡で顔を見ると 鼻先と頬がやけに赤く…

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昼過ぎ 窓の外をふと見たら 銀杏並木が陽射しできらめいていた 三階の部屋からは背が高い樹の上のほうだけが見える 風が吹くたびに 激しく揺らいで 舞い上がる葉は黄金の風になる来客を見送るため 階段を降りて玄関へ行ったついでに 裏口にある駐輪場のほう…

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写真の現像が仕上がっているけれど まだ取りに行けていない 撮るときはわくわくして現像に出す日が待ち遠しいのに 出してしまえばもうどうでも良くなってしまう とはいえ責任をもって引取りには行くしかし本当にろくな写真が撮れていないのだ いつもそう ぼ…

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ストロベリーでも ヴァニラでもない 甘い香り わたしはこの香りを知っている 有名なブランドのパルファンや 最初は珍しかった 近頃流行りのフィグやポメグラネートのフレグランスでもない もっと身近で懐かしい そしていかにも合成されたという安っぽい香り …

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ピアスのひとつでも開けようかと思い色々調べてみたけれど 針を刺す痛みよりなにより 引っ掛けて千切れそうなのが目に見えて それが嫌だ 痛いことより失えたり 戻らなくなったりすることが悲しい

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また外へ出ないうちに一日が終わった 変に暖かい日が続くので季節というのもあまり感じられない こんな穏やかな日は コーヒーの入った水筒 シナモンロールと林檎を入れた籠を持って川べりへ日光浴へ行くのにうってつけなのだけど 気づけば日が沈んでしまった…