Entries from 2018-09-01 to 1 month

1323

完全に心が戻らない乾いた唇と唇が触れ合うほんの数秒間に 色んなことが思い出されて この関係性がもう終わりに近いこと または生涯にわたって続けられることを感じた 相反する想いが 結局は実らない恋であることを確信しているのはわたし自身の理性によるも…

1322

掴めない水のかたちを描く流線型の速度 あらゆる規制と制限を逃れて溢れ出す匣のなかから いつか見たことがある景色を眺めていた

1321

ふるい映画を観た 非常によく知られた曲が今なお新鮮さを失っていないと人気で 曲だけを知っているひとも少なくないと言われている マトカは若いころ汽車を乗り継いで街の映画館まで観に行ったというが 肝心の内容は忘れてしまったらしい 実際のところわたし…

1320

くたびれた身体を起こし 顔をあげると大きな月が見えた こないだの満月は雨で見えなかったけれど まだそれなりに丸いし とても明るくてきれいに光っていた青い色が好きだ 大好きな空も海も青いから 初めて作ってもらったワンピースは青いギンガムチェックの…

1319

幾つかの通り過ぎていった景色を思い出して 継ぎ接ぎの記憶を辿れば 短い夏が出来た 初めて出会ったのは雪の日だったのに ぜんぶ夏になるのはどうしてなのだろう たった500日ぽっち 2年にも満たない時間 わたしは確信している ふたりが流れていた河がもう二…

1318

すこし肌寒くなってきたので 空気の香りを変えた 夜に咲く花だけを集めて煮詰めた甘い匂いは 山で拾い集めた骨に染み込ませると ただ瓶から放つよりも長いあいだよく香るのだ 肉がこそげ落ちた大きな角のある動物の頭は 焼かれた骨と違ってまだ温もりを感じ…

1317

男の顔は履歴書とか 30歳の顔は生き様とか言えど 見た目なんてそれほど重要ではなかったはずなのに なんだか一気に冷めてしまって なんてことだろう あの人はもうかつてのように嵐に立ち向かうことも 青々と広がる海に帆を張って船出することもしない だろう…

1316

言葉に出来ないことを伝えられない 言わなければわからないと言われるけれど 言ってもわからないだろう そのように決めつけるのも良くないと思ってはいても なかなか出来ないことで わかろうとしたけど無理だったと言われるくらいなら 何も言わらないほうが…

1315

本当は会えないことをわかっているのに せめてと約束だけを取り付けたままでいて 不誠実であることに躊躇いもしないのは あの人がわたしに素っ気ないからではなく わたしの我儘 会えなくなったと伝えたら 彼は厄介なことが無くなったときっと胸を撫で下ろす…

1314

本の取り寄せを頼みに行ったら 問屋に在庫がないので版元に確認してからと言われ 既に出版社には確認してあると言ったものの それは火曜日のことだったので少し心配でもある まさかこの4日の内に品切れになってしまったらどうしたものか 冊子には「バックナ…

1313

噂話の煙がたって火元がわからない 猜疑心が強いひとの ある種 妄信的な意見によると 火をつけたのは自作自演らしいけど それって本当かなどっちが正しいとか 悪いとか じゃなくて 良くなる方が良いんだけど それだって視点の違いで違うことになるから 世界…

1312

いつだったかどこまでも広がるイルゲンドヴォの穀倉地帯を見に行きたいと言ったとき それって私たちが暮らすここにあるよねと屋根裏部屋から窓を開けて それなりに広がっている田園風景を見せてくれた彼女とは今も友達だけど 地平線まで続く穀倉地帯は見たこ…

1311

くたびれた服を売りに行ったら 二足三文にしかならなかったけど ごみに出すよりはましだ なんとなく気が引けて 衣料品回収ボックスに入れるのが一番だと思うけど なかなか見つからないお金がないとき しばしば赤十字が経営する古着屋で服を買っていた アンテ…

1310

眠気を堪えながら覗き込んで夏の名残を探した 濁りのない水が流れてゆくちいさな河 どこへ流れてゆくのか うつろな意識のままで

1309

サヴァイヴしてる 人並み以上にタフにならなけりゃあ やってかれないのよ あちらもこちらもゾンビが歩き回って 昔は良かっただなんて知らないっつーのー デッド・オア・アライヴ いつだってあんたは寂しがり屋で 独りで眠るってことが出来ない 出来ないんだ…

1308

あの人のことが好きなのに たぶん1週間も一緒に暮らせばうんざりするのがわかっていて どうでもいいひとたちは そんなことないよ試してみなきゃと言うけれど 自分のことくらいわかってるし あの人はそんなにいい人じゃない 幻想を追いかけているくらいが丁…

1307

歳をとるのは嫌だった というか 何者にもなれないまま大人になるのが怖かった おおきなことひとつも成し遂げられないまま ぼんやりと生きてきて わかったことは 仕事のあとにつまむ烏賊の塩辛や鰊の酢味噌和えが日本酒にとてもよくあい なんとも美味いという…

1306

世が世なら だけど世が違ったんだなぁ と男は笑い飛ばしたので わたしも違う世の未来のことを考えてみた 少しばかり愉快だった すべてわたしの思い描くと通りというのは御都合主義のドラマみたいに12回の放送できちりと終わるあのとき 北の大地に骨を埋める…

1305

明け方に目が醒めて思ったことは まだ暗いうちに家を出た朝のこと そう何度もなかったから余計によく覚えている あの人はまだ布団のなかにいるのだろうか それとも可愛い女の子と朝陽が昇ってくるのを待っているだろうか どこかの山小屋で 身体を寄せあいな…

1304

被害妄想をどんどん進めていくうちに 加害者にすらなってしまう 可哀想で可愛いという矛盾 痛めつけて泣かせてから ごめんね 痛かったねぇとヨシヨシしたげるの とは全くもって迷惑な話ではないか どうかしてるね

1303

部屋の模様替えをしたら 家具が上手く収まったことでやたら広い空間が生まれてしまい 落ち着かなくなってしまった なるほど白い壁の部屋には絵のひとつでもかけないとバランスが悪い

1302

足に合う靴を探すのは実に骨が折れることだし それを見つけるというのはとても幸運なことだ 見た目は気に入らないけれど履いても痛くならないとか 色も形も素敵だし踵の高さも理想的だけど歩くたび顔が引き攣るとか そこまで極端なことではないにせよ 大抵ど…

1301

祈りについて考えるとき 想うことは幾つもあるけれど 根本的なことは変わらない

1300

まだ人通りの少ない日曜の朝の駅靴の音がやけに響く階段を降りて また上って 自販機で切符を買い 指定された乗り場を目指す好きなひとのところへ 会いにゆくのはひとりでたとえそこに彼がいなくてももうこの世にいないときでも定刻通りに 予め定められた列車…

1299

過ぎさった嵐の後で 倒れた道路反射鏡に映る青空がやけに綺麗だった 橙色に塗られた円形のなか 滑らかなアクリルのうえを 白い雲が流れてゆく 河には壊れた夢の残骸

1298

ひどい嵐だったので ガスコンロでスープを煮込んで食べた 光が一刻も早く戻りますように

1297

残業おわりの街はすこし静かで 嵐の前 スーパーの惣菜コーナーはほとんど何も残っていなかった 食べ損ねた夕食の代わりに精肉店で細切れを買ったのだけど 果たして豚だったか 牛だったのか よく覚えていないのだった パンはすべて売り切れていたので 明日は…

1296

東の空が青くて そのしたにピンク色の雲がもくもくとのぼっているのが見えた 月が変わって わたしはいよいよ憂鬱になる 蟋蟀の鳴き声はたしかに風情があるけれど 窓から吹き込む風に雪が混じる日は遠くない 闇に抗わねば

1295

黒目がちな眼の上に描かれたきれいな三日月型の眉 白い肌に浮かぶそばかす 鼻筋のとおった顔を俯かせ 少し尖らせた唇はふっくらして紅い 名前を呼ばれた彼女がはっとした表情で声の主のほうへ向くと 肩のあたりで切り揃えられた黒髪がさらさらと揺れた まる…