Entries from 2018-03-01 to 1 month

1141

新しいシーツを買った なんのために? 見返りを求めるなという ギブアンドテイクなんて無い わたしは言ってはいけないことを口走ってしまい場を白けさせ 本当に いない方がまし 洗っても 洗っても カーテンについた血が落ちない なんでこんなとこに飛んじゃ…

1140

ジュブロフカのりんごジュース割が好きで ドイツ人のFはその味をアップルケーキのようだと言ったが わたしは桜餅の方が目に浮かんだ これまでに食べてきたものが違ったから なんの変哲も無い ただアルコールを保存するためだけのごく普通の丸いガラス瓶 そ…

1139

尋常ならざる秩序 あらゆる規律は破られることを想定しても危惧してはいない そうする必要がないから 水のなかで人間が呼吸することは出来ない 魚のようにうまく泳げたとしても 決して空気のない世界では暮らせないように 混沌は秩序のうちにあり 青く発光す…

1138

それなりに必要な物事や事柄は 適切なタイミングで起こるので その瞬間 いかにうまく踏切板のうえで跳ねることが出来るかどうか それが問題 とび箱を何段まで跳べたか覚えてる? わたしはぜんぶ駄目だった 手をついてその勢みで跨ぎるなんて怖くて出来なかっ…

1137

初めて行くスーパーマーケットは何処も 初めて来たスーパーマーケット然としている 会社説明会に来たリクルートスーツ姿の学生が見分けられないように しかし何度か顔を合わせる内にはっきりと個性が見えてくるように 恋人が海外で暮らす弟のためにカップ麺…

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桜の季節になって 初めて 名所の木が一本残らず伐り倒されていたのに気づいた ことし 春は来ない

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情緒の乱れ 暴走する被害者意識 取り越し苦労の春 思い過ごしで済むならそれでいい 早く楽になりたい もしも屈強な男に生まれていたなら 世界中を旅して暮らしたかった 雪が溶けない高い山を越え 羅針盤だけが頼りの大海原をゆき 赤い砂漠で朝陽をのぞみ 密…

1134

時間が出来たのでようやく病院へ行った 受付にいる年配の女性が「初めて来られましたか」と訊くので「いいえもう何年もお世話になっています」と答えて 保険証と診察券をだしたが あとから見たら一年ぶりの来院だった 先生は前より白髪が増えていた 私がちい…

1133

はじめに倒木や枯草の間から明るい緑がのぞく それは嬰児のいろ 芽吹いたばかりの名を知らぬ草 柔らかな草は春の息吹と共に勢いよくひろがり 荒れた山野を静かに覆ってゆく 凍てた骨と屍の谷には再び水が流れ出し 葉をすっかり落としていた梅の木は雲雀の歌…

1132

新しい棚を注文した 倉庫に無いので予約して取り寄せるらしい 在庫があるかどうか瞬時にわかるなんて本当に素晴らしい国だと思う 北方なら大体調べるだけで一週間はかかるうえに セール時期ならばさらに遅れて 結局無いとさえ言われるのだから システム的に…

1131

遠くの街で雪が降ったという報せ 桜のうえに積もる白い雪 ここいらでは冷たい雨が降った 生まれた町では どれだけ暖かい日が続いても 4月が来るまでは 車の雪用タイヤの取外しをしたりウールのコートをクリーニングに出したりするなと言われて育ったのだっ…

1130

豆の実を鞘からはずす時 青臭いにおいがして子供のころに遊んだ草花のことを思い出した 根菜や菜っぱを切ったり 牛蒡を洗ってもそんな気持ちにはならない 豆ごはんをつくるときの懐かしさや 炊きあがりへの楽しみ お米と豆の味がちゃんとするのがいい

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あとになってから 彼女のことを知っているか訊けば良かったと思ったけれど 今更それを知って何になるだろう もう死んでしまった彼女のこと 生きていたらどうしていただろう 果たせなかった約束と 受けられなかった着信 夢のなかで彼女はやさしかった この世…

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授業のあとで 先生たちが彼らはとても意欲的だと話していたのを聞いた それは良いことだけど 私たちにとっては当たり前のことだと思うし むしろ意欲だけで進んでいるようなものだ アフリカでは関西弁が通じるというのは面白いジョークだけど ある意味 思いが…

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久々に歩いた道は 夏に秘密を共有した通りだった 普段は忘れていて なにかの拍子に思い出す そういう場所が年の数より幾つかある 彼らが誰かにべらべら喋っていなければの話 このところ立て続けに知人が週刊誌に掲載されたが ひとりは不名誉な醜聞であったの…

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滑らかに燃えあがる炎 焼けた木が弾ける音 祭りの焚火は遠くからでもよくわかる あの美しい闇に輝ける光は先祖代々受け継がれてきた方法で村を照らすのだ 百年前 いや千年前と同じように 春の夜を

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初めて買った化粧品は頬紅だった なにせ桃色の丸いケースがとても可愛かったし 口紅はよくわからないけれどまだ早いと思ったので 今なら出がけに口紅を塗りさえすれば それらしく見えるから手放せないし 頬紅だって桃色や橙色だけではない 黄色や紫の頬紅を…

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憧れの遠い街へやってきた祖母の一言「そうねぇ」 期待を抱くことが幸福だと言った哲学者の名前は かの世界的有名な2枚目俳優と似ていたと思う 物見遊山 百聞は一見にしかずと重い腰を上げて旅に出たあかつきに彼女は「何処も似たようなものねぇ」と息を吐…

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口にするのも禍々しいほど怨んでいる人間がこの世にまだ生きていて 心につけられた傷も 彼らに対する復讐心というのも一生消えないだろう 他人のせいにするのは良くないとはいえ された仕打ちは教訓にすべきだし 無理に忘れる必要はない 忘れた方がいいと言…

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どうして愛するひとと一緒に暮らしているのに 別々のテレビ番組を観て過ごすのと聞いたら そんなもんずっと一緒にいてたら飽きるよ と言われた わたしはそうは思わないけど

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天気が良いので川べりを散歩した 外来種の水草が 渡り鳥によって全滅したとかで 水が澄み渡り川底の小石や砂がきらきらと光って見えていた 子供のころは水草の間を泳ぐ魚を網ですくって遊んだものだけれど いまは砂利と水だけの川 こうして景色は変わってゆ…

1120

春のぬかるんだ土が冷たい 雲雀はまだ歌わない 鳶はこのところよく飛んでいる 農夫たちが畑を耕し始めたからだろう 果てしなく広がる集団農場のうえに青空 冷たい風が吹きつけ それでも太陽の輝きが嬉しくて歩きつづけた 身体以外なにも失うものがなかったあ…

1119

通りすぎた季節と降りたことのない停車場 話したことがなかったひとの訃報 午後 電話がかかってきて一方的に予定を変更されたので もう無かったことにしたいし そうするつもり 訪れて 結局 入らなかった場所をもうほとんど忘れてしまった 青梅街道沿いの住宅…

1118

彼女と初めて出かけたのは雨の日だった それからいつも ふたりで出かけるときには雨が降った とても降るような空でない日でさえ 突然どんよりとした雲が広がりだし ぽつぽつと地面を濡らし始めたのだった わたし自身は雨に降られるということは滅多にないの…

1117

日々の営みのなかに消えていった痛みや喜びのことを 思い出さなくなって いつか外部記憶装置に残していたバックアップデータが消えたら そのまま忘れていってしまうのだろう その程度のこと というわけでもないけど よくある話

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どの改札を通るときにも思い出すひとの貌がちがうので 行く先を間違えることがない 彼らのなまえが全て Aから始まることに気づいたのは最近のことだったけれど 駅を出てさいしょの角を曲がる直前 予感ではなく あのひとが歩いてくることを確信した いるはず…

1115

このところ音楽を聴くことがめっきりなくなってしまったので 久し振りに連れていってもらった 並んで椅子に座りては膝のうえにおいて 静かに聴く音楽 パンフレットを見ると演奏家たちはみな一流と呼ばれる音楽大学や芸術大学を卒業しているとある いつだった…

1114

記憶媒体を購入する際に悩むのは 物自体の値段や性能よりデータを遺すべきか否かということ わたしの生きた証などなにも遺らなくたって構わない けれど生きていくうえで必要な事柄まで消えてしまうのは困る 本当はそれらをすべて分別すべきではあるものの な…

1113

とてもよく晴れた穏やかな日だった 駅前には観光客が溢れかえり ひどく疲れてしまった 彼らはみなとてもゆっくり歩き 急に立ち止まっては写真を撮り出すし 大きな声で騒ぐのでまったく穏やかではない もはやありふれた光景ではある 喧騒を抜けて裏の路地へ入…

1112

部屋を片付けて 読み終わった雑誌は古紙回収へ出して 二度と会わないひとの恋文は焼いて 着なくなった服は古着屋で売って 手帳に書き留めた連絡先を整理して 求めてはいけない愛のことを忘れて それから それから 恨みつらみは忘れて 混沌のさなかでも秩序を…