Entries from 2018-07-01 to 1 month

1263

薄荷煙草は好きだったけど ミントのガムはどうしてもダメだった 食べられないことはないけど匂いがどうにも苦手で あれは本当のミントの匂いじゃない 薄荷煙草のそれが本物の薄荷入りだとはつゆほども思っていないけれど ガムのミントだって何で出来ているの…

1262

砂浜と海の狭間で波に揺られていたら なんだか死んでしまったような気がして 空と水の色が溶けて泡立ち入道雲になってゆくのが見えた 畑には向日葵が並んで咲いている うちの玄関に飾ってあるのと同じ八重咲きの黄色い小ぶりの花 100年以上前に有名な阿蘭陀…

1261

届いたばかりの本を読むのがなんだか惜しかったけれど やっぱり早く読みたくてページをめくると 10年前の友達がそこにいた ほんの少し年を取り 無精髭を生やしていたけれど 小綺麗な格好で 昔と変わらない様子だったのでとても嬉しかった 早くあの子にも知ら…

1260

教会のなかは静かでひんやりとしていた 足音とひそひそ声が不快ではない程度に聞こえるその空間を表現するには まさしく静謐という言葉が相応しかった 石造りの床 壁 天井 そして石像 今は誰も触れることが出来ないパイプオルガン 調律するひとがきっといる…

1259

好きな鳥は?と聞かれて フラミンゴと答えたら え?あ〜そういうの〜 と笑われたけど あんなにピンクで 長い脚で片脚立ちして 意外と嘴と眼光が鋭くてステキな鳥なのに どういう鳥と言えば満足したんだろう 食べるなら鶏とか冗談をとばしたらよかったかな 別…

1258

空の色が紫に燃えているのは 夏の青さと燃え上がる太陽が交じり合っているからなの 生まれたばかりの入道雲はすぐに大きくなり わんわんと泣き出す 大粒の雨に打たれた背の高い向日葵は風に吹かれて 折れて わたしの目線にまでその頭を垂れている 土に水が滲…

1257

海へゆくのが楽しいのは今からなのに 夜は少しずつ長くなる 花火行かへんかぁ と言うので ふざけて 舟から見せてくれんねたら行くわ と答えたら 舟ちゃう 電車や ○○橋すぎる時電車の窓から見るのがええねん と言われた 確かによく見えるだろう 早く帰って桃…

1256

あの街へ行く理由がなくなって久しい 彼はまた戻ってきたけれど 会いにいく理由はない ひとを愛することに根拠や理由が必要とは思わないけれど それでも衝動だけで走り出せた頃に出会えてよかった もう想い出でしかない 同じ時代 同じ世界で生きているとして…

1255

昨夜はクーラーをつけずに眠ったのだが 朝になると汗が滝のように流れ出し 布団のうえはずくずくに濡れていた まさか幼児のようにやらかしてしまったのかと思ったが 汗だった アラビアンナイトだってもう少し夜は涼しいだろう

1254

潔白ではない関係性を証明するための接吻 あなたがわたしを愛さないとき わたしはあなたを愛さないことは真か偽か 一度も心を込めた瞬間などなかったか 暗闇のなかで彼らは好きという 誰に向かって言っているの 不誠実な快楽を求めて でも純粋な欲望ってなに

1253

茹だるような昼を過ごしてなおも続く熱帯夜 あのひとの笑う顔を見て やっぱり 美しいと思った そして愛に溢れた日々が 果てしなく続けばいいと願った

1252

終業式では眠らなかった 正直言って寝ていたほうがマシだったけど うつらうつらすると頭を叩かれるうえ 後で校長室に呼び出されて反省文を書き終えるまで帰ることが出来ないからだ終わってから校門のところでAに出会ったので 明日プールに行こうと誘ったけど…

1251

剥げかけたマニキュア この色はあの人が好きな色だと言っていたけれど 手に触れるためだけの口実だった なんて可愛いんだろう サーモンピンクとフューシャピンクの区別がつかなくたって問題ない わたしが白といえば黒だって白と認めてくれる人だった 愚かな…

1250

見慣れているようで やはりこの景色を知らない 遠くまで広がる黄金色の畑と澄んだ空の色を 猛スピードで走り抜けてゆく 夕暮れ時の風を 土に残った太陽の温もりを 刈り取られた草からたちのぼる青くさい匂いを 知らないし 忘れる

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水着は使わなかった 泳ぐのに適した場所も 水に触れられる場所もなかったから 早朝 大通りのロータリー中央に植えられた花壇の近くで回るスプリンクラーだけが冷たい飛沫を飛ばしてきたけれど バイクや自動車の間をすり抜けて植込みに入るわけにはいかないし…

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手を滑らせるといけないので いつもの赤茶色をしたゴム手袋ではなく 軍手をはめなければならない 鱗にぬめりがあるのだ まな板の上に置き頭を押さえ 腹びれのあたりからすっとえらまで刃をひくのは 簡単そうに見えるが じつは結構力がいる 開いたら中から赤…

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初めて手を繋いだ日のことを思い出して 少しだけムカついて でもやっぱり愛しい

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あと2日もしないうちに彼は街に戻ってきて 違う天井の下で暮らし 同じ女の子と眠る夜をまた始める これまでに何度も繰り返してきたことだけど もう彼は昔のように若くはない 勢いだけで傍若無人に突き進んで来れたとしてもその足元はあまりにも脆弱だった つ…

1245

未来を描くのと虚構を描くのは 同じ絵空事でありながらもまったく別のことなのに 第三者から見ればどちらも想像の産物に過ぎず 言葉はどこまでも言葉でしかない(しかしそれでも虚言として存在しているのだ)

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ねぇ久しぶり 元気にしてた?そう 良かった 彼女も一緒に暮らしてるの?ふーん 色々あったんだ まぁね こっちは暑いよぉ 毎日30℃超えてるもん え?夜もよ すっごく蒸し暑いんだから嫌になっちゃう そう言えば初めて会った日も暑かったよねぇ 祇園祭のさ お囃…

1243

去りゆくひとの 哀しげに丸まっていた背中がいつしかしゃんと伸びて 足取りも軽やかになっていたことだけが救いのようなものだった 何も出来なかった 無力そのもので 誰もが何もしなかった そのことを思うと苦しい人生において素晴らしいと考えられている時…

1242

頸筋 のことを思い出した 陽に灼けた褐色の肌が滑らかな彫刻のように美しく 汗の匂いとも 整髪料の匂いとも違う 熱っぽいが穏やかな匂いがした 頸筋を舌で伝い鎖骨の窪みに到達すると 彼女は同じように唇と舌を使ってわたしの頸筋から鎖骨へと愛撫した その…

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暮らすように旅をするのか 旅するように暮らすのか 曖昧になっても構わない 暮らしと旅 ハレとケ 生者と死者 ぜんぶが混じりあっていて でも融けあうことはない 油と水がガラス瓶のなかで同じ液体としてありながら どれだけ瓶を振っても完全に分離するように…

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二十歳を過ぎた頃から夏ごとにひとが死んだし 生まれたし 違う男と花火を見て かき氷を食べた 初めて告白したのは小学生の時だったけど それから一度もちゃんと好きと言ったことがないし 言われたこともない 最後に生き物を飼ったのはいつだっただろう 水槽…

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ひどい天気だった いまも続いているあの人はわたしに 骨がほしいかと言った わたしは 先に死なないでほしいと答えた もしその日が来たならば いつか舟に乗って迎えにゆき その時こそ骨を頂戴と言うだろう先に逝ったひとの骨は 海に撒かれてしまったので珊瑚…

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徒労におわるというのが嫌いなので 何かしら理由をつけて納得させたいのだけど とんだ茶番を見せつけられたときには また少しタフになれたねとしかいうより他にない そんなに強くなりたくもないのだけど 大切なのは強さを誇示したり 必要以上に強がらないで…

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紛い物の高級時計を売っていた店はもう無かった 両隣の店を区切っていた壁とシャッターも外され 棚や什器がない床は広く 紙屑や大きな玉埃が転がりそれは もう店が片付けられてから既にかなりの年月が過ぎていることを示していた とはいえ電池交換は頼んだこ…

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朝 通勤途中の列車で見たニュース J.D.サリンジャーの未単行本化作が刊行されるという 正しくはもう発売されている 先月の末に ぜんぜん知らなかった もう新しい作品は少なくとも日本語では読めないと思っていたのに サンドイッチにマヨネーズを忘れるなんて…

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知らない街へゆくための道筋を 知らないひとが教えてくれたので 知らないなりにどうにかなると思う 冬の街で行き先を教えてくれた老女はわたしの発した短い地名の一語だけのために 延々となにか説明をしてくれて しかし単語のひとつも理解出来なかった 去り…

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郵便局へ行き 恵まれない子供たちのために物資を送った 自分が使わないものを他人へ与えるのはなんとなく気がひけるが 信じられないものでも喜ばれることがあるし 逆も然り 使わないものは必要としているひとの手元へ行けば良いと思う選択肢があるということ…