Entries from 2015-08-01 to 1 month

198

きらきらと揺れているのは ただのビニール 夏の夢を詰め込んだ 無色透明の指定ゴミ袋 色とりどりの予定が透けている ただのゴミ わたしはそれを拾いにゆく クルマバソウの茂みを掻き分けて 拾いにゆく 河に流しても良いのは 叶った夢の煌めく欠片だけ

197

アルコールが押し流して行った日曜日 わたしは途方に暮れたまま むかしの夢ばかり見る 震える手を握り締めてくれた あの人の陽に焼けた骨張った手 今も何処かで 誰かを慈しんでいるだろう

196

それと深く関わらず生きられる彼女はしあわせなのだろう きっと佳いことなのだろうと 羨ましかった かつて愛した男はそれを苦に自死して もうひとりは蒸発したわたしにはそれを否定することはおろか 彼らなりの選択を咎めることも出来ないけれど それは目に…

195

泡になって消えてしまえばいいのに

194

白い月が出てる 早く家に帰って眠りたいのに 何処へも行けやしない 回送電車はわたしを運んでくれないから 眠りたいのに 明るすぎる 滑らかに削正されたレールのうえを通り過ぎてゆく夜 わたしはまだ 走ることが出来るし 震える指でも 自分のからだひとつく…

193

不眠症で眠れないあなたと同じだけ きっかり3時間の闇を暖めてくれた やさしさ ふくよかな白い手のことを 今でも思い出せるのに もうあの部屋には誰もいない おかっぱのあの子も 背の高い男の子も 消えてしまった 割れた酒盃のかたちを いずれ忘れてしまう…

192

台風で路頭に迷い西へ向かった豪雨の夜に 南の島を思い 喫茶店でひとりサラダを 新鮮なレタスを食みながら 神さまの孤独を思い バターを塗られた温かいパンを噛み締めながら 果てし無く広がるメルズーガの砂漠を思う いつだって最期にはひとりきりなら その…

191

新発売の除光液は 甘い蜜の香りをさせながら 夜を拭うから わたしはまた 反省することもなく 朝を迎えるのだった

190

人の心も 季節も やがて移ろいでゆくものだけれど せめて百日紅が散るまでは この恋が燃え続けますように

189

空に五線譜と檸檬部屋から酒瓶と刃物が隠されて久しい痺れるような時代だった なにもかもが新鮮で 朝露のように きらきらと輝いて 割れた硝子の欠片のように 危なかった なにものでもなかったから なににでもなれる 可能性だってあった しなやかに 健やかに …

188

寂しくなんてない 死んでるけど兎と狐がいるし 歌うのが嫌いな小鳥だっているから 怖くなんてない いつだって最期はひとりだから 健やかな想い出を食べて 生きてゆけたら佳い 電池が切れてしまうまで

187

誰とでも寝るような女の子になりたかった不整脈では 正確なリズムが刻めない

186

土を掘れば何かしら見つかるこの街は 新しいものと 旧いものと 生き続けている 死んだものも 生まれるものも 北から流れてくる 河の底に沈んだままのものも

185

緩やかにのびてゆく煙 少しずつ肥ってゆく 甘い月 暗闇のなかで 彼女は死んだのではなく 別のところで生まれたのだと わたしから遠く離れてしまったけれど 神さまの傍へ行ったのは 即ち 幸福なことに違いないと祈ってそれでももっとたくさん 話したかったも…

184

枯れた向日葵は夕立に打たれてばらばらに散り昨夜の花火の燃殻はバケツの底に沈み蝉の断末魔も終わらぬ内に蟋蟀が歌い出し誰もいない校庭の片隅でひっそりと死んだ誰かの夏

183

まだ幼いとき 家の近くで山が燃えた 晴天が続き乾いた樹々は轟々と燃えて 消防は駆けつけたものの どうにもならなかった 翌朝 山は黒く焦げた斜面になっていた どうにもならなかった

182

星の巡りでは上手く行くはずだったふたりの間を流れて行った 薄紅色は あなたがいたずらに摘んで ばらばらに千切った まだ蕾であった花だった腕を切り血を零すと その流れは 赤く染まり 薄紅色を飲み込んでゆくけれど もうそこには誰もいない 遥か向こうの対…

181

北の地で墓前に立つ わたくしの祖父は 戦争で死ななかった 満州へ行っていたと60年近く思われていたのに 病床にてまだ意識が残っていた僅かな時 初めて上海に出征していたと話し 仕舞いに みなで仲良く暮らせよと 笑って手を振られたのだった祖父との会話は…

180

ソリッドに生きたいと君はいうけれど 近いうち暴動は終わるし もう厚底靴で走れないなら 創りだせよ あたらしい地図 君のためだけにさ

179

もう魔法の氷は溶けてしまったにせよアマレットみたいな声で歌うとこ好きだし黒い巻き毛や薄い唇 もっと触れていたいし

178

わたしはなにも知らない顔をして あなたに口付けるだろうし あなたも知らない顔で わたしを抱き締めるだろう まったく別の流れにいたのだ ガンジスとライン 水脈すら異なる瀬でも 望めば海へ辿りつけるけれど あなたのいる南の島は 何処にあるのだろうか

177

籠のなかのカナリヤは 殖えることもなく 歌うだけ 軽やかに死へ向かう ほんとうは空の飛び方まだ 忘れてないのに

176

焼け野原の夢ばかり見ていた幼少期を経て わたしは戦争体験者の話を読み漁った 何が起きたのかを 知りたかったのだ なぜ 夢のなかの街が 焼けていたのかを 単なる夢であったとしても サイレン 眼を閉じて 祈れよ 一瞬だけでも

175

誠実であろうとした 歪んだままで 誠実な振りをしただけだった 口付けが巧いあの人は 沈黙を続け 近いうち 神様になる予定

174

青々とした海に 呑まれないように 踵と爪先を精いっぱい 地面に付けて あなたにしがみついている 8月の夜には 死んだひとがたくさん 帰ってくる 入り江の灯台には 一晩だけ 灯りがつく あなたが迷わないで 帰れるように 暗い波を煌めかせ 死んでいたのは私…

173

大人が立つと膝までしか深さがない ちいさなプールで 子供たちが歓声と水飛沫を上げている この世界のなかで起きる 想像を絶するような暴力や 自ら死を選ばざるを得ないような不安 或いは絶望が 彼らに降りかからないように または 貨物列車に詰め込まれ 運…

172

君の顔を忘れないだろうきっと 何度も思い出すだろう ずっと 唇は柔らかで少しだけ乾いていた 或いは湿っていた それは夏の仕業だ 夕立に遭い 稲妻に撃たれた所為なのだ

171

金糸雀色の花を一輪 選んで リボンかけてもらう 透明な包のなかで あなただけを見てる いとしさ 陽に焼けていない白い手 アルコールの夢に溶けてく 言葉を紡ぎだす繊細な指先 ねぇ陽が沈むの早くなったの気付いてた

170

轟く 今世の終わりにいいえ それは過ぎ去ってゆく日々を祝福しながら見送るための儀式

169

提灯が揺れている夏の宵 この街から抜け出せないわたしは 未だに下手くそな踊りで 一等上手に笑いながら踊った男の名を 誰も知らなかった 恐らく根の国は近い