Entries from 2016-07-01 to 1 month

533

ああ もう何処へも行かれないし 暑いはずなのに 暗くて寒い 花火を見なかった 昨日も 今日も たぶん来週も見ない 何度もこの夏が最期だからと思って 観に行ったのに 結局死ななかった 死ななかったのは結果として よかったのかあまりわからない ひとりの人間…

532

土用 川のなかを歩く人々の手に握られた蝋燭が 数多の光の粒となり 揺らいでいる 音もなく 静かに弔いではない祈りの炎は すこやかに煌めく 西の方にある教会でも しばしばわたしは蝋燭を買い求めたものだった 暗いせせらぎをわたり わたしは蝋燭を供え 祈り…

531

歩きくたびれた街角で ふたりは小さな喫茶店へ吸い込まれ 塩豚を食べた まるでミラノに来たみたいだった 行ったこともないのについ歩きすぎてしまうのだ いつでも 楽しくて どんどん進んでしまう 異国で道に迷ったときは もうほとんど諦めていたけど なんと…

530

嘘日記をつづけて530日目です。先の予定をいうのは嘘ではないにせよ、真実とも限らないかもしれない。 だけど私は実在して、1週間後くらいにステージで詩を読みます。 真夏の夜を一緒に楽しみましょう。 2016年 8月5日(金) TOY BOX vol.25 @関目 FLEX Open…

529

歓声 こどもたちは水の中を はしゃぎまわりながら 夏を呼ぶ 蝉も鳴く 初めて出会ったときはまだ小学生だった男の子が 高校生になって 身長なんかとっくに抜かされてるし 髭だって少し生えてる なのにわたしのこと「何年生?高校生?」だって 一年に一回だも…

528

小人ばかり7人も要らないし 魔女は来ても 王子さまは来ない そんなもんだろうすれ違いざまに わたしは爽やかに微笑みながら労いの言葉をかけ ついで なにかを言いかけるように 一瞬躊躇って その場を離れる 特に意味もなく だって人違いだった林檎は昔よく聴…

527

映画のあらすじを話していたのに 「それあんたの友達の話?」と言われたので 彼はトオルじゃなくて トニーだったのかもしれない 確かにオールドスクールでサグなギャングスタだったわけだけど 死者が出なきゃ 馬鹿騒ぎを辞めないのは 21世紀の今だって大して…

526

叶うことのない恋を 追うこともなく 愛しつづけることに 意味はないかもしれない あるいは禁慾 こどものころ 家の裏に神様が住んでいた 今もいるとか もう死んでしまったとか ニーチェみたいだな 失せ物を見つけるのが得意だったらしい なにせうわさ話でしか…

525

汚れたら洗えばよかったのに 擦り減っていってしまうなんてそんな 使い切ってしまうことは 出来るのだろうか感性は大切なもので 確かに豊かな時期というのもあったけれど いたずらに蒔いた種が花を咲かせて実るばかりとは限らない 手入れをしなければならな…

524

まだあどけなさが残る 少女の耳に揺れる紫檀色のタッセルピアス 短いワンピースから伸びる陽に灼けたほっそりした手足は成熟をまだ知らない しかし サヴァンナを駆ける草食動物のような しなやかさがあり 美しい未来への可能性をたっぷりとはらんでいる わた…

523

リクィッド 流れるオイルの色は赤と青 プラスティックボトルを ひっくり返しては 戻して リクィッド 時は流れ落ちる 水の中を棚に並べられた液体時計を右から左へと全て順番にひっくり返してはまたひっくり返す赤と青の油がぽたぽたぽたと丸い雫になって転が…

522

白い満月が出ている 今夜は窓もカーテンも開けて眠りたい得体の知れぬものに 恐怖を覚えるまるで仔犬か猫のように 動物的 本能的にそれは死に似ている

521

夜更けまで電話で話し込んでいたのに 朝の光ですっきりと目が醒めた 窓から吹き込む風が気持ちよい 鳥の囀りと 小川のせせらぎだけが聴こえる 梅雨明けの翌日 悲しみと 怒りを鎮めるために香を焚いた まだ青白い空気の部屋に わたしは神さまの存在を感じる …

520

スケジュール帳を持たなくなったのは iPhoneがあるからではなく 記すことが無くなったからだった 今でも憶えていられること以上の予定は立てない 大体 間際に決めるから 特に必要がないのだ 夢にも思わなかったことが 次々と現実になり 不可能は可能になった…

519

海藻の入浴剤は 深い緑色 水草の色そのもので 水に溶かすと 薄くひろがり 浴室中にイランイランの香りがたちこめる 満月に近づいてゆく月の光が 磨り硝子の窓に映るのを横目に はるか南方の島を 碧い海のある国のことを思い浮かべては 懐かしさで胸が苦しく…

518

祭りへ行くのは たぶん3度目で 私たちが出会ってから3度目の夏がきた 来年 再来年も 同じように暮らしているのか 先のことは誰にもわからないけれど 1000年前から続く祭が 夏を報せるお囃子の音が これからも続いていきますように

517

彼女に訪れた美しい季節が 永遠に続けばいい 薄紅色の小さな花が 散るたびに咲けばいい 光は彼女の肌を健やかに照らし 陽が沈めば 星々は煌めき 漆黒の髪を一層艶粧すだろう 愛しいMよ 貴女がその名のとおり とこしえに美しく 気高い存在であれ わたしは貴女…

516

仕事帰り 欲しいものが見つからず 妥協する必要もなかったので 何も買わずにセール会場を後にした 秋の新作は まだ少し早いけれど もう並びはじまっていて なんだか寂しくなる 梅雨もまだ明けてはいないのに水曜日にうってつけの 黒いワンピースには 刺繍の…

515

「だれもいないから家においでよ」と誘いこむと 彼は椅子の無い部屋に敷かれた 毛足の短いラグのうえに座った まるで ビートルズの曲みたいだったけど 彼は既に航空券を手に入れていたし ワインは外へ飲みに行った夜が更ける前に駅まで見送りに行き 帰宅して…

514

誰でも構わないというのは ただの思い過ごしで 拒むことを知らないまま 流されているだけなんだ 選ぶことが出来なくなる前に なんとかしなくちゃいけない もしもまだ自由に生きていたいと願うなら そうするだけの力が必要 霞を食べて満たされるならいいのに…

513

ほんとうのところ かなりうんざりしている ただしいとか まちがいとか うそをつきとおせばいいとか だまっていたらいいとか しんじつのあいだとか さめたかんけいだとか てんしも あくまも すっかりいやになってしまったサイレンまだいきています へんじをし…

512

まだわたしたちが 溢れんばかりの夢に 見惚れ 迷っていたころ 若いということを知ってはいたものの その魅力に気付いてはいなかったころ 軽々しく 消耗されていった日々のことを 真夜中に思い出す 愛なんか無かった まだ 畜生のほうがましだった銀座にある高…

511

マトカは料理をしないひとだった いつも寝てばかりいたので バプチャのつくる 茸のスープと玉ねぎのスープを 毎日交互に食べた 木曜日は豆のスープだった 歯の悪いバプチャは 豆が崩れるほど よく煮込んで 味付けはどれも同じだった 靴のような固いパンをそ…

510

雨が降る すこしまえ 空気が湿り気を帯びた庭 蜘蛛の巣についた 水滴は 硝子玉の首飾りのようになり 風が吹くたび ゆらゆらときらめく 光もないのに ああ この蒼さ 陽はまだ沈まない 曇り空はちゃんと 灰色をしている けれども 時間のもんだいなのだ 家に帰…

509

もう すっかり 忘れていたはずのひとを思い出して 記憶の糸を辿る 彼は何年かまえに 結婚した気がするけど 野球選手にはなれなかった 背が高くて 走るのが速くて 女の子の憧れだったけど 少女漫画のヒロインのその後をわたしは知らないし 昼ドラも朝ドラも観…

508

時間を戻したいと思ったことがないのは つまり何処まで戻れば良いかわからないからで あるいは生まれて来なければ良かったのかもしれない けれども それでは 愛しいあなたと 同じ時代 同じ世界で 過ごせないということそれは確かに 何もないことよりも 辛く…

507

信仰なき羊の群れが あなたを踏み躙り 押し殺してゆく 祈りもなく 灯された火は ただの炎として 青いインクで書かれた手紙を 陽に焼けた古い書物を 次々と燃やしてしまう 遠くでは 林檎泥棒騒ぎ 祭壇に供えられた なにもかもが消えてしまい はじめて後悔する…

506

積んで 乱れて 積乱雲 午睡が醒めたら雨になる 悪いことしてないです 犬の散歩に行きました 花に水もやりました ご飯の支度もちゃんとして 宿題もしました Aちゃんのこと いじめてません Mくんのこと 盗ってません ほんとうです ぜんぶつくりばなしだから 嘘…

505

どの夜も 同じ色ではなくて 美しさを増してゆくのか 褪せていってしまうのか いつかの夏に 愛したひとの髪も伸びて もう すっかり変わってしまったのだろう 抱きしめたときに頬に擦れる 長い巻き毛が好きだった ふわふわと柔らかく 愛しかった 唇も 髭も 薄…

504

紫蘇の葉を頂いたので 煮詰めてシロップにした 砂糖がたっぷり入った 保存のきくレシピで かなりどろりとしている 北国にいたとき サフトと呼ばれるジュースを夏中飲んでいて 巷ではベリーを煮詰めたシロップで 各家庭で作ると言われているが 記憶にある限り…