Entries from 2016-02-01 to 1 month

380

あなたがたの未来にひかりと 幸いあれ

379

3時間おきに眼が醒めてしまう ヴォトカを飲んでおけば良かったかもしれない しかしこういうときにはいずれにせよ眼が醒めてしまうものだし 嫌な夢さえもみるものなのだった まだ女給をつとめていたとき 海外から来ていたひとと知り合い しばらくメールと手紙…

378

花を片手に 友人のもとを訪れたそれから 初めてゆくパン屋で クロワッサンを買ったのち 喫茶店で砂糖とミルクを入れた珈琲をいただいた 沢山の人が飲食や会話を楽しんでいるが 左右の席は知らないひとが座っているので つまり ひとりカウンター席で煙草をの…

377

朝起きたら 蟲になるのではなく 猫になる つまり猫のようにしなやかに伸びをして 一日を始めるということ その話を読んだのは なにかの美容本だった 健やかに生きるための 色々が書かれた 美しいひとによって書かれたものということだった植物や鉱物 天然由…

376

「Mという詩人を知らないか」 向かいの席に座った青年が 大きな銀色のスプーンでオムレツを崩しながら尋ねた 「誰それ」 いつだって行方を眩ます者は多い 気になったので あとから調べると 数年前にMの詩を読んでいたことがわかった (本当にすぐ忘れてしまう…

375

あなたに手紙を書こう 青いインクの万年筆で 薄くて綺麗な紙に 読まれることのない手紙を書こう 書き終えたら わたしのお気に入りの香りをふって 海岸の鳩に託そう神さま

374

あたらしい生活を始めよう 不要なものをすべて捨てて あたらしい部屋で暮らそう 必要なものは何であったか あたらしい日々を送ろう まだ誰も知らない方法で あたらしい恋人をつくろう 寂しさで眠れぬことなきよう あたらしい人生を夜がきて 星が瞬いて 月は…

373

あなたのいる海が 広く 青く 透きとおってゆきますように 凍えることなき対岸は 水漬く屍で濁るけれど いつかは砂浜になるのだろう 骨 あなたの喉仏の白く 脆い骨を 囓る日が来ませんように

372

泣いている赤子 笑っている嬰児 抱えては揺れている母の乳房 祝福された命 かつては わたしもそうであったのだろうか 罪悪感だけが いつまでも背中に 脚に まとわりつき いまや凍えた身体で 歩くことすらままならない

371

誰のことも 忘れてゆくのだろうか いつかは心臓の音が聴こえる 16ビートで刻まれる心音 いやほんまは それがどないもんなんか 知らへんのやけど 誰かがいつか そのように言うておったので たぶん そうなんやろと思ってるねん えー わたしもなぁ リズム感あっ…

370

池のほとり わたしは厚底靴でふらふらと回って遊ぶ 木の枝に引っかかった綿毛は 鳩でも 天使でもなくて きっとインディアンの羽根飾りだった この街はとても温暖な気候に恵まれているので こどもたちは 緑の芝生のうえを 跳んだり 跳ねたり 転がって遊べる …

369

電話が鳴り 布団のなかで受話器を取った 脚に保湿クリームを塗ったばかりの 少し湿った指先で 髪を首筋にかけながら 彼の声を聴いたのは 久しぶりのことだった 窓の外には 工具を背負った夜の労働者たちが列をなして歩いている 雪はもう積もらないだろうが …

368

あと数時間できみは旅立つので 過去へと飛び去ってゆくし わたしは来週発売する新色の口紅を予約したし 唇はもう 春の色で 花が咲くように 肌が裂けて吹き出す真っ赤な鮮血 Rammsteinの "Frühling in Paris" が iPod から流れている 言葉を幾ら学んでも 理解…

367

雨が降りそうな午後4時前 レースのカーテンを引くと薄暗い部屋のなかに 春の予感が澱み ソファのうえで 少しだけ泣いた ソニック・ユースの "I Love You Golden Blue" が流れていたので Sonic Youth - I Love You Golden Blue 通り過ぎてゆく人生の温度を 心…

366

明け方 眼が醒めて 暗闇のなかで わたしはひとりだった というのは 至極当然のことであるはずだったあなたは囁くように話すので 注意深く聞かなければならない 一字一句を逃さないように あなたが呼ぶわたしのなまえを ひとつも聴き逃さないように 人生は一…

365

カーテンを閉じた二重硝子の窓の部屋 花柄の壁紙と白い天井 わたしはあなたを抱く あなたもまた わたしを抱く 生身の肉体は 心臓の音が聞こえ 柔らかな肌は汗で滑る 薄暗い光のなか わたしは痛みを堪えながら 悦びにふるえ 何度も泣きそうになる 永遠の一瞬…

364

何もかもそれほど悩むことではなかったのかもしれないけれど わたしは悩まないでいるようには出来ていないし 傷つかないこともない 彼のことを好きになってよかった あのひとはとても優しくて いい加減で 誰かが死んだって きっと大丈夫 どのようにでも生き…

363

今年もう何度目かわからないサロン・デュ・ショコラへ行く メレンゲは完売 何処もかしこも完売 とても流暢な日本語を話すフランス人シェフはいなかった 国へ帰ってしまったのかしらんパリを訪れたのは 夏のことだった ショコラは買って帰れなくて なぜか わ…

362

あなたは橋を渡ろうとしている 石で出来た頑丈な しかし とても古い橋だ わたしは濡れた草の茂みで白詰草の冠を編んでは 河に流しにいく あなたは橋の揺れを感じている 今にも崩れ落ちるかもしれないことを 知っている それでも渡ろうと ゆっくりと歩を進め…

361

他人の気持ちがわからないと言われる人と 何を考えているのかわからないと言われるわたしは 上手く行くのかと思ったけれど 人格が破綻しているだけ人間性に問題ありと 罵しられて わたしは泣かなかった 何も思わなかった 透明になってゆく気がしていただけで…

360

通り過ぎてゆく誰かの日々に 少しだけ 触れてゆく それは柔らかくて 冷たくもないけど 暖かくもない 肉体はない 魂でもない あなたのかたちは 曲線で構成されているのだろうか それとも平面的なのか 光を屈折するだろうか 音を響かせるのだろうか わたしには…

359

あなたは流れるように生きているので捕まえられない死にたがりの夜は真っ赤で寒い 錆びた臭いが充満しているけれど 手脚が痺れて動けない 死にたがりは朝を知らない そんなものは永遠に来ないから地下道は水浸し 何年も前から修理されないまま あなたは排水…

358

腕に刺さった17Gの針からチューブを流れてゆく赤黒い血液 200ml リクライニングシートに身体を任せてわたしのきぶんはとてもおだやか 君のことを考えると お臍のしたらへんが すごく変な感じになる よくわからないんだけど 流れている血液を眺めながら とて…

357

借り物の言葉 それもワイドショーで流された スポーツ新聞の記事をただ読んだだけの つまらない文章を拾い集めただけであるから そこには誰もいない 誰ひとりとして 当事者がいないから それぞれの言葉は どれだけ良いものであろうと 結局のところ 噂話みた…

356

夕方の街に神さまは現れた 数年前よりもこざっぱりとした姿で 革靴を履き エレベーターの扉が開いて現れた それはまったくの偶然 運命というよりは気紛れ 何も携えずに 記憶すらも何処かへ置いてきたようだったが ふたたび わたしの目の前に腰をおろした滑ら…

355

暦の上では春 とはいえ 記憶にある立春の日は ただでさえ白い病院の 更に雪で白くなった地面についた 無数のちいさな穴 穴 また 穴のこと水滴が落ちたような でも雨なんか降らないし 氷柱もまだ溶けない寒さだし 不思議に思って 母に尋ねるとそれはゆうべ 窓…

354

恐らく 9年前の今日 わたしは初めて教室以外の場で 朗読をした 透明な酒盃には 檸檬と火酒 そして雪の日だった その日灯された炎は 今でも燃え続けている

353

ショーケースを挟んで 売り子の女と買う気の無さそうな男が会話に夢中だったので わたしは彼女が研修で一緒だったという若者の前にあるチョコレートがまるで見えなかった 代わりに 何処かで聞いたような いや 確実に聞いたことがある かなり辟易させられた退…

352

仕事おわりに靴修理店へ行く 店番の男は 以前いたひととは別の 愛想がよい好青年であった しかし あの無愛想なひとは 魔法を使ったかのように 踵を美しく直してくれたのだけどエナメルシューズは いつだってぴかぴかに磨いておきたい