Entries from 2017-01-01 to 1 month

717

美容関係の書籍コーナーへ行くと そこらじゅうに パリ パリ パリ と書いてあるので サラダかよって思った それも新鮮なキャベツかレタス 葉物じゃなくてはだめ 玉葱や人参ではそんな音がしない 一日にボウル一杯のサラダと チアシード入りのデトックス・ウォ…

716

取れたボタンをつけること 誕生日祝いのカードを書くこと 入浴剤を詰替用の容器に移すこと あの人の返信に期待しないこと旅行店で案内誌をもらうこと 更衣室の絨毯を掃除すること つぎの授業は休みでも宿題をしておくこと アイスクリームはひとつだけ食べて…

715

無理に忘れなくてもいい どうせ忘れてしまうから どれほど愛したつもりでも なにも残らない

714

音から覚えること 声に出してみること 「赤ちゃんは自然と言葉を覚えていきますよね」なんて 赤ちゃんはお手入れしなくてもお肌ツヤツヤじゃーん って わたしは目元クリームを塗りながらぼやく 宣伝が終わり ラジオは交通状況を流しはじめた 雪で通行止めさ…

713

パリを目指すのは 生きているひとに会うためではなく 墓参りをするためだから ある意味ではいつでもいい わたしの都合さえあえば 彼は石碑の下に眠っているから たぶんずっとラ・セーヌ わたしはそのほとりで迷子になった シャンゼリゼからはるか遠く 全然知…

712

営みを続けることに意味が見出せないから チューブのなかを流れる血液を見るときにだけ 生きていることを実感できる かつて出血多量で死に瀕したひとの 脚から流れたあの赤黒さ コンクリート上の血溜まり 漏れたガスの匂いが 人生が通り過ぎてゆく香りだとす…

711

似合う色かたちというよりは 肌に合うとか しっくり馴染むとか そういう感じ 淡い色は顔色が悪く見えるとか 青は青でも目に刺さる青だとか とにかく自分で納得しなくちゃだめ 若い子だけが 女だけが着ていい色なんてものはないし 黒を着ておけばいいなんて退…

710

10年前に出逢ったひと そのときに着ていたコートと 同じブーツを履いていて 少しも懐かしいと思わない 何も変わらない 髪型も えくぼも 昔のまま 思い出にならない 永遠の一瞬が続いているから 何も変わらないずっと お慕い申し上げます

709

探していた部屋は消滅していた信じ難いことだが 隠し場所に鍵は無かったし 開けるべき扉も無かったのだ いつ? だれが? あまりに長い時が流れたとはいえ まるで初めから無かったかのように消えてしまうなんて手元に残った古い手紙を 細かく破いてから言われ…

708

目的もないのに 新しい言葉を覚えるというのは無駄なのだろうけど 使えなくたって魔法の呪文を覚えるのはわくわくする なにを目指しているのと訊かれても答えられない けれど魔法が使えるようになりたい言葉を読むことは 口に出して発声するということには …

707

歩くのが好きなのか 移り変わる景色を眺めるのが好きなのか どちらでも構わないが 気候が悪くなければ つまり 酷く荒れた空模様であったり 灼けるように暑いときでなければ 歩くことは苦ではない 目的地があってもなくても良いから やはり歩くのが好きなのか…

706

ファッション誌の紙面に訪れた春と恋 わたしは "YES" が幾つあるのか数えるのが億劫になり 2017年にどうすれば幸せになれるのか知れなかった かといって マラソンを始めるのが吉とか ミニスカートがラッキーアイテムと言われても困る

705

5年前の今日 彼はまだ生きていて わたしは彼女を知らず 彼らもまたわたしを知らなかった死は暗い闇 或いは粘着質の泥のように足元にへばりつくのではなく 空気のように 当たり前にある それは恐ろしいことではない 営みの一部であるのだから

704

霜がおりた枯草が昇りはじめた太陽の光に照らされ出して ところどころ金色に濡れているのが 雪のなかで眠る女の髪のように見える 凍らない河は脈々と流れる 雪と金髪の草むらの間を 朝陽が燃えあがる遠くの山並みから流れる 光で煌めく水面は美しいどこかで…

703

近頃わたしはとってもあのひとの子供がほしい生でヤルとか中出しセックスがしたいとかそういう問題ではなくて むしろ確実に受精出来るならなんだっていい あのひとのとびきり元気な精子を子宮に 独りでも生きてゆける強くて優れた遺伝子を与えてほしい 受胎…

702

とても美しい翡翠に似た瞳の女と再会した 奥行きのある緑の瞳孔 その縁はほんのりと赤みがかっている 生まれつきそのような眼であるそうだ 明るい茶色の髪と 白く柔らかそうな肌 そしてルージュで塗られた紅い唇 何もかもが彼女の存在を完璧に構成していた …

701

晴れ間に窓を開け 白い雪で埋もれたベランダに立つと 柔らかなパウダースノーの下は氷 裸足の指が濡れる 凍てる 震える 太陽の光が眩しい 凍った湖のほとりでは火を焚いて 全身で自然の恵みを感じて過ごしたものだった

700

欲しいものを訊かれたとき うまく答えられなくて口ごもっていたら 骨をあげると言われたので わたしより先に死なないでと答えたけれど 本当は指輪が欲しかった 愛による束縛を可視化したそれを身につけたかったんだ ふだん 指輪なんかしないくせに 神さまに…

699

ひどい寒波が来るというので 春の花を買った ステラという名のスイートピー 生成のレースみたいな色で愛らしいアンナ エルザ ユリア カミラ オルガ 母音aで終わる名前は素敵だ 思えば一族には誰もいないので 憧れているのかもしれない 呼んだあと開いたまま…

698

空の色について しばしば忘れてしまいそうになる 思い出せなくても然程困ることはないけれど 出来るだけ正確に描けると嬉しい靄のように雲が薄く漂い 彩度は低め 乱視のきみは電飾を厭い 空ばかり見る 静けさのなかで空気は震え 記憶と共に霞んでゆく 現実だ…

697

まどろみのなかで心中に誘われて かつて亡命をもちかけてきた人のことを思い出した 亡命という字は 命を亡くすと書くので きっと祖国を失うということは どれだけ逃げても限りなく死に近くて ある意味では心中にも近いのかもしれない愛する人から最期の相手…

696

消した覚えもないのに見つからない映像を探して 結局 残ってはいなかった あれは日本海に消えた泡になったのだあまりに澄んだ水は海面と空の境目が曖昧であることを知らなかった 冬の朝 揺らぐ藻と 光を反射する魚の鱗 そして冷たい流れが海中であることを肯…

695

時おり どうしようもない眠気に襲われる 吐き気でなくてよかった 成人式のことをほとんど覚えていなくて 実際行っていないから仕方がないのだけど 二次会にも行かなかった あとで友人から 居酒屋で年齢確認をされ 数名早生まれの者がいたために酒類が提供さ…

694

雨が続くので日がな一日映画を観ていた 天気が良ければドライブへ行こうとしたのだけど 結果としては 部屋から一歩も出ることなく 南極から世界中をめぐり 戦国時代から22世紀の未来まで観ることが出来た 洗濯物は 下着の一枚だって乾かなかった

693

友達だから寝ないし 会えなくても平気だというなら わたしはもう友達にはなりたくないと思う いつか二人の関係性を 友達とは呼べないと言った君のことを思い出して 悲しいような気持ちになる だけど 友達と寝るということのほうが ずっと惨めで寂しい

692

「その靴 すてきね ベルリンで買ったの?」 日なたのベンチに並んで座った彼は視線を自分の足元へ向け「ああ」と短く応えた 「ぴかぴか光ってないところが好きだわ」 「磨いてないからだよ 初めは光ってたんだ」 「そうじゃなくて こういう感じの革がいいの …

691

ちいさな花がいっぱい散らばった模様 砂浜を走れない足捌きが悪い生地で作られたスカート 「年中履けますよ」だなんて わたしがどんなところに住んでいるかも知らないで笑っちゃう だけどとってもとっても可愛いからいいの 春がきたら赤いカーディガンに 夏…

690

マシュマロみたいな女の子になりたかった そうして あの人にやさしく撫ぜられて 舐めて 舌の上で溶かして欲しかったんだ指が内臓のなかで動くあの感覚を 今でも覚えていて 鏡の前で絡みあう肉体が現実とは思えないほど憂鬱にみえた 浮遊感は痛みで引き戻され…

689

解体するのはそれほど難しくはなかったし バランスや順番を考える必要もほとんどなかった 組み立てることに比べたらなんて単純 悩まなくてもひたすら螺子を回して外すの繰り返しを続けると 自然にかたかたと音を立てながら形を失くしていった 何だってそうひ…

688

想像し難いほどの孤独や疎外感を抱えて死ぬよりも 愛だけを胸に抱いていてほしいし それは想うだけの気持ちではなく 与えられたものであってほしい高いところを目指して 転がり落ちたって 死ななきゃ大丈夫 翼が無くたってある意味では飛べるし 妨げるものを…