Entries from 2016-09-01 to 1 month

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閉店間際の百貨店へ駆け込み 化粧品店で頬紅と眉墨を買った いつもの女性が店番をしていたので 少しばかり安堵する 彼女は来月発売の口紅の色を手の甲でいくつか試したあとで 似合いそうな色を見つくろい 唇にのせてくれた 艶やかな液体 まるで血のような赤 …

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磨り減って 消耗した日々が 除草剤が撒かれた河川敷の枯れ草のなかに散乱している 嵐がきて河が増水するたびに 少しずつ押し流されてゆくのは からからに乾いてひび割れた欠片が存外重たいからだ 何度目かの嵐のあとで わたしはそこで金色に光る小さな釦を拾…

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髪を伸ばす理由を忘れたまま 伸ばし続けている 理由なんか無くても 髪や爪は伸びるものなので どれだけうまいこと 綺麗な状態を保てるかということが難しい 整えるときには椿や杏から採れる植物性の油が少々必要である それから豚毛のブラシ 毛づくろいには…

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「ねーあのさ 俺こないだ見ちゃった」「何を」 「首吊り死体」 「うそ」 「ほんと ほんと ◎◎場のちかくにある公園」 「なんでわかったの?」 「警察が来てたから」 「どんな風だった?」 「かっくーんってさぁ 頭が垂れて 腕なんかも垂れ下がってんの あ 木…

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コスモスで花占いをしてはいけない 好きの次は嫌いで そのつぎがまた 好きだからうんざりするほど退屈な映画を観て 悲しささえ覚える 監督自身のスキャンダラスな人生と最期まで含めての作品だなんて どうして創作と人生を切り分けないのだろう 或いは存在自…

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棚の上にはミネラルウォーターの空瓶と芽が出ているコルチカムの球根 それからキャンドル いつか海で拾ってきた貝殻とガラスの破片 窓を開けると水の流れる音と どこかから聞こえる祈祷文 サイレン ありとあらゆるところに 神さまの息吹を感じる なにもしな…

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晴れ間に秋桜を見に行った 一日に一度は外へ出た方がよいと言われているので 出来る限りそうしている 川べりの砂利道は乾き 蟋蟀が時折跳ねていた やるべきことはたくさんあるのに 次から次へと忘れていってしまう あまりにも眠すぎるのだ 秋桜は昨夜の雨で…

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恋は水色で 水色はシャガールの描く空で 空は果てしなく高くて 彼女は季節外れの積乱雲 稲妻みたいに速くて 台風のように激しい 旋風が黄金色に輝く田園を駆け抜けたあとを見たことはある?

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夢だった 夢ではなかった 夢なら良かった 夢のつづきは また夢カラフルなゼリーで構成されている あなたの唇の赤 あなたの瞳の緑 あなたの嘘は透明で しゅわしゅわと泡を立てる炭酸水 黄色い檸檬が薄い輪切りになって浮いている 窓の外は雨 洗濯物は乾かない

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かけがえのない生命ですから ていねいに暮らさないのは 罪深いことなので 朝ごはんは新鮮な有機栽培の野菜ジュースと 無農薬のライ麦パンから始まります 下着はオーガニックコットンで出来ていますし なんならワンピースだってそうです 自動車は排気ガスを出…

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新しいスケッチブックの表紙を開き 真っ白い画用紙に向き合うこと それは4月のように憂鬱で しかし期待に溢れている このまま閉じて紐をくくり 棚に戻したっていい 出たくない授業ではないから大丈夫 気が向いたときにやればいい 色鉛筆は使い古されてはいる…

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真夜中に台所でヴォトカを飲む きっちりコップ1杯 120mlの命の水 消毒液のような甘い香りを 一口ずつ 砂漠のことを思い出しながら 舐めるように激しい頭痛が時折やってくるので それよりは酔ってしまいたいと思う 眼を閉じると あまりに多くの幸福な思い出と…

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セックスでキレイになる という煽り文句が苦手なのは 牛乳を飲めば背が伸びる と言われて ただ飲むだけでは 結局 平均身長にもならなかったからなのか 足りない言葉への不信感が拭えない 牛乳は美味しいし セックスが気持ちよくても 肝心なのは 誰とどのよう…

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畑の隅に咲き続ける鶏頭の花は 夏の残り火で 燃えつきた夢は 資材置き場の裏にある廃品回収箱のなか あなたもわたしも 随分遠くまで来てしまった 別々の暮らしにおいて 出会ったこと自体が 過ちだったとは思わないにせよ 叶わぬ愛を望むことは 罪だったのか …

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殴られるときは奥歯を噛み締めておかなければいけない 口の中で切れてしまうから しっかりと歯を食いしばっておかなければ しかし同時に 声をあげて快楽に悦ぶことも必要なのだ 堪えるばかりでは飽きられてしまう 肌が裂けて血が流れることを恐れてはいけな…

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時代遅れになった自己啓発本を読みながら 煙草をふかしている真夜中に 荷物をまとめて急に旅行に行ったり 台所でケーキを焼き始めたりしない 旅行鞄は壊れて捨ててしまったし 小麦粉もないから どこにも行けないんだった月夜 誰も殺さなかった 虫1匹だって

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北国に暮らしていたころは 買い物に行く店は誰でも決まっていて 売っているものも大抵同じだった インターネットをつかえば別だけど 今も変わらないだろう レンタルビデオショップのレジにあるチュッパチャプスが 知る限り街で一番安かったので しょっちゅう…

577

酷い頭痛でしたよ ほんとうに 身体がいうことをきかないんです 起き上がるなんてとてもとても 腕を上げることだってままならない 仕方ないから布団のなかでじいっとしてました 熱はないもんでしたが 頭がずうっと殴られてるみたいに痛むんで 眠るのもつらか…

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嘘ばかり書いているので 叫ばれる愛も 暴言も 絵空事だとばかり思っていたのだが そうでもないらしい 詩人は恋をしなくても 恋の詩を書くけれど Love & Peace 反戦の詩はほんとうのことで 人類が滅亡しますようにと叫んだ言葉はほんとうじゃないなんて どっ…

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エアコンが壊れた車でドライブに行った 晩夏の陽射しが厳しく 窓を開けて 音楽を流しながら 田舎道を走り続けた うんざりするもう一度 泳ぎに行きたかったのにと ふくれたら SAの売店でソフトクリームを買ってくれたので 食べながら山のうえから海を見た 遠…

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昨日は重陽の節句だったけれど アルコールを断っているので 菊酒は飲まなかった 代わりにスプレー菊を買った 仏花の印象が強いので なるべく愛らしい桃色で 花芯が目立たず ダリアのようにころんと開いているものを選び 一緒にトルコキキョウを買った レモン…

573

退屈だけを噛みしめては吐いてを繰り返す どこまで行っても同じようなものだ 環状道路に歩行者が立ち入ることは禁じられている ぐるぐる歩いている内に 違う世界へ行ってしまうからだとは ある意味では正しい行進する音楽隊の喇叭の音 近づいては遠ざかって…

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綺麗な白身の魚を食べた 寄生虫や鮮度の不安無しにそのまま頂けるのは嬉しい 日差しが降り注ぎ 水面の輝く海から水揚げされ 鱗をきらきらさせながら届く新鮮な魚は 死んでいるのに美しい 海を知らずに育ったひとは 魚嫌いだった 好き嫌いは誰にでもあるから …

571

ただひとりの神さまを信じ 愛して生きてゆけたなら どんなに素敵だろう 祈りの日々 欲を捨てた清らかな生活 そういった暮らしかたに憧れはするけれど この世界は誘惑が多すぎて わたしにはアルコールを断つことすら難しいねぇ 誰に誓っていたの 病めるときも…

570

構って欲しがりの君は たぶん 何もなかったみたいに歓迎してくれるだろう 或いは待ちくたびれているのかも 既に興味はないけれど 傷つけたくはないので 何もなかったみたいに 知らないふりをするというのは 善人ぶってるだけで 君のことなんてもう なんとも…

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この街はもう時間が止まったまま 波だけが行ったり来たりしているので 坂道を転がっていったのは16歳のわたしだった 誰もいない大きな交差点で信号が青になるのを待ってから 駅のほうへ向かう 参考書と教科書でいっぱいの鞄を背負いながら 西陽はうんざりす…

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海も鯨も好きなので いつかは と思いながらも 世界的な名作といわれると気後れしてなかなか手が出せなかった 白鯨 [DVD] 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 発売日: 2011/06/22 メディア: DVD クリック: 1回 この商…

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つやつやした生地のコンビネゾン 生成り色のポリエステルサテン シルクじゃないから洗濯はネットに入れるだけ 簡単にマシン・ウォッシュが可能 いつだって どうせ長くは続かない 一刻も早く勝負を決めなければ その一心で あたしは着飾って 取り繕って なの…

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理解することは愛じゃないです 受容することは愛だとしても 理解と受容は違うんです そもそもなんかよくわかんなくっても 好きだからまぁいっか っていうだけで 愛しちゃえば 理解なんて たぶん 出来ない わたしには無理だと思うな でさ あんたはわたしの何…

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煙草を喫むのを辞めて夏は過ぎた このあとは幾ら暑くたってもう夏じゃない 週末もう一度泳ぎに行きたいとは思うけれど それは名残を惜しみたいからというだけのこと花火をしなかった去年もしていないし その前もしていないから すっかり忘れていた 来年はす…