Entries from 2016-04-01 to 1 month

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サイレンが聞こえる窓の隙間から吹き込む風が カーテンを揺らす 清潔なシーツに取り替えられたベッドは わたしの心を落ち着かせてくれる 消毒液のにおい 囁き声 肉体のかたちを保ったまま わたし自身は液体のように流れ出してゆく いつか何処かへ消えた あの…

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革命を諦めた子供たち 徒労に終わったわけではなかったのだが 変化はもたらされず いまや状況は悪化する一方となった街角では街宣車が走り 一例に並んだ信心深い女たちは終末を嘆いている 夜 ふたたび冷えこんだ身体を 火酒と知らない男の手を借りて温める …

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新緑が雨に濡れて 輝かないのは 太陽が隠れているから結局 カレンダー通り労働へゆくことにした どのみちすることも無いのだ 人混みに行くのは今でもかなりつらい 歩く速さや 眼のやりどころなんかが わからない あまりにも たくさんの声がしてなにも恐いこ…

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雛罌粟の名を冠したヴェルニを買ったのは もう既に一年前のことになるのか この春 店先に並べられたのは ジタンヌの赤だったなんと蠱惑的な色なのだろう! 炎よりも熱く 野生動物のように自由で獰猛 烈しい想いで身を焦がすことを 愛と呼ぶと 今なら信じられ…

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一線を越えてしまったひとが 照れ臭そうに その夜のはなしをしたので わたしは手を叩いてはしゃぎながら相槌を打った そうすることも時には必要だから 窓の外には欠けゆく月 満ちることのない下弦に近づいてゆく 空はまだ 明るいわたしが生まれる前の今日 チ…

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早過ぎる死を悼まれるためだけに早く死にたいけれど 誰が悼んでくれるか わからないのが悩ましい なんて ほんとは誰も悼んでくれなくたって良いんだ 別にお悔やみの言葉が貯まれば 何かと交換出来るってわけでもないんだもの どうだって構いはしない誰かの為…

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髪を切った 「そろそろまた縮毛矯正をしましょう」と 美容師は言った 本来ならば 梅雨前にするべきなのであろうが なんとなく先延ばしにしてしまったそれから 麻のセーターを買いに行った 身体に合う大きさのものが無かったので 取り寄せてもらうことにした …

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雨が降る前に諸々の用事を済ませて病院へ行った ところで昨夜は晴れた満月だったので 水晶に月光浴をさせて わたし自身も夜風にあたることが出来たので良かった 夕方から少し雨が降り始めたから 早めに片付けられた新しく 昔の曲をiTunesにDLしたそれらは わ…

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休暇の予定を立てるため 彼女と夕食へ行った わたしたちは よく焼かれた肉を食べた (大体いつも同じ店で ふたりで同じものを食べるのだ) それから 旅行案内誌を何度も読み返して 運賃や時刻表を見比べ ようやく行き先を決めて 海のほうへゆく切符を買いに行…

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いま どこにいるの また 知らない間に 出て行ってしまうの 或いはもう既に そこにはいないのかもしれない あなたは傘も持たずに ふらりと外へゆくからOù vas-tu?竣工したばかりの架道橋は雨に濡れたコンクリート壁が鏡のように街灯を反射させている 美しい流…

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炭酸入りの水を買いに行った しゅわしゅわと弾ける冷たい水が好きだ ペットボトルのキャップを開けて ストローを挿して飲むのは なんだかわくわくする それが退屈な会社の休憩室であろうとも まるで夏休みのように 楽しい気持ちになるのだった

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きみの唇は比喩ではなく 事実甘くて それは 口付ける直前に飲んだ 甘い水のせいだったファースト・キスに憧れていた まだ幼かった頃 それが檸檬の味だなんて 誰が言ったのだろう 唾液は舌の上をどこまでも生温く滑り 大抵はアルコールの味がしたことは 悲し…

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単線をひたすら走る汽車は 暗い車内で木の床が軋む トンネルを抜ければ山桜 橋梁を渡れば じきに海が見えるだろう 晴れてさえいたなら見覚えのある石段をくだり またくだって 街へ出た 硫黄の香りが漂う 猫と坂道の多い あの島のことを思い出したが 名前がわ…

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ナホトカの港に君がいない夜のしじまを 縞馬が駆け抜けて またひとりになる 繰り返し見つけた筈の砂金は指の隙間から流れ落ちてしまう 速度制限を設けなければ!太陽と月が入れ替わる7日間のあいだに 大統領は逃げ出した 凍った土地を見捨てて 毛皮を着込ん…

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古い白黒写真を納屋で見つけたとき かつて愛した男と 写真の男があまりにもよく似ていたので 驚きのあまり手が震えたが 煙草をくわえて 草むらに座る長髪の若者は 若き日の父であった 今では遠くへいってしまったあの人と よく似た眼差しで ひどく悲しくなっ…

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長岡京の朝に わたしは泥だらけの筍を運ぶ男たちへおはようを言ってから 恋人と珈琲を飲むためカフェに入った 通学路を歩くこどもたちの声が聞こえ なにもかもがきらきらと輝いて 見えた それはまだ わたしがあなたを知らず あなたもまた わたしを知らなかっ…

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目覚めても 微睡んでも 愛は流れる 日々はうたかた 白詰草の花言葉を知ってる? 指切りで約束しなくなったのは 何歳のときからだろう 前向きに検討し続けて いつまで逃げ切れるだろう 電話はきっと鳴らないし わたしは受話器を取らない吐き出した叫びを集め…

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魔女が西から雨雲を連れて帰ってきたので 架道橋は冠水寸前 わたしの靴は泥水を潜ってゆくし ストッキングは両脚とも破れてしまったし でも 熱いシャワーを浴びれば また元に戻る とても美味しい筍を食べたから

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愛しかない 酷く荒んだ生活のなかで 愛だけがあればいいと言えるのは スクリーンのなかだけということは 口にするほどのことでもないと思っていたけれど そのような前提すら 共有しえないことだってあるのだった昼休み わたしと彼女は計算機を使って 週末の…

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話したいこと 山ほどあるのに きっとわたしは何も言わない 伝える術はあるけれど 行間がうまく伝えられないから 薄い便箋は白紙のまま 肌に透ける静脈の色で 書くことが出来たらいいのに 切り出して吹き出すのは 山野に広がる雛罌粟の花に似た色 あなたの眠…

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どうしても辿りつけない先にきみの指ではなくて夢 叶うとか叶わないとか どちらでも良くて現 水辺でわたしは眠る 草むらの中でしびれる足 馬の嘶きと みなしごの泣き声で きょうも日が暮れてゆく 何も為すことが出来なかった 何もすべきではなかったから

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きみの存在 もうとうに実在していない きみの生きていた証 遺灰ですら 風に吹かれてしまった きみの せめて感覚だけは ずっと覚えていられるはずだったのに 今ではほとんど 感じられなくなってしまった 春の湿り気を帯びた午後に わたしは記憶を失ってゆく …

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ここには何もありません わたしは空っぽ つくりものの身体 まがいものの人生 安くはないのに価値もない そういうものに なってしまった なってしまったんだわなにも求めないで わたしにはなにもない はりぼての身体だけがぜんぶで それすらも 価値がないとい…

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あなたの名前を探す癖が抜けないのは 一体何に期待しているからなのだろう わたしはもう若くはない 死ぬにはまだ早いのだけど 月の無い夜 身体中あちこちが痛む 涙も出ないのに

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嵐が来るという あす 花はすべて散ってしまうだろう 残る桜も散る桜とはよく言ったものだが 若葉の芽吹く木々は美しいとうに終わってしまったはずの日々を 惰性だけで生きているのに わたしはまだまだ この世を愉しみたい あなたと休暇を過ごしたい 小舟に乗…

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下流は桜の花びらで埋まり トンネルを抜けるたび 闇は深くなる 山椒魚は岩の狭間で 新月の暗さを知るのだろうか 爪先から滲み出てゆく毒 それはわたし自身がつくりだしたものだった

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止まったままの時計の針をすすめるのは わたしでも 神さまでも 誰でもなく あなた自身の指で 幸福な思い出は 桃色の霞のなかに溶けて 待ち侘びても戻らない ひとりぼっちになった あなたの肉体が 宇宙と混じることは出来ないが 代わりに 太陽のひかりや 熱さ…

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桜の並木を頭上に ふたり並んで歩いた 機関車は黒い煙を上げながら走る 芝生は青く 子供たちは走ったり 転がったりしながら 歓声をあげてはしゃいでいる 穏やかな日曜日 午後の眠気は底無し沼のように深い 見知らぬ人から受け継いだ書籍は 愛とか ひかりで出…

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遠方より友来る わたしたちはかつて 白夜の国で束の間の夏と 長い冬を共に過ごしたのだが 今では東と西に分かれて暮らす身となった しかしながら 数年に一度逢うだけでも 懐かしいと思うのは当時の雪景色であり ふたりで20日ほど汽車と船に乗り旅をしたのは …

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視聴後に彼女は「親の管理が足りなかったのね」と言った ヴァージン・スーサイズ [DVD] 出版社/メーカー: 東北新社 発売日: 2001/02/02 メディア: DVD クリック: 337回 この商品を含むブログ (279件) を見る 尋常になった自傷行為に気付いた彼女は 娘を病院…