Entries from 2015-12-01 to 1 month

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空白を埋めるように 息継ぎ 手帳は新しいままで 古くなり 古紙回収の屑篭へ捨てた 日にちを把握するためだけのカレンダーは 予定も誕生日も書き込めないけれど それで充分なのだ 訪れる日々に祈り 過ぎてゆく日々を弔うだけ

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年末らしい諸々の用事を済ませ 洋食店で昼ご飯に定食をとった ドリアが出来上がるまでに女性誌をぱらぱらめくる 相変わらず純粋な欲望が小綺麗に並べられているのは 清々しいほどだ 法外な価格がついたハイブランドのコレクションの紹介のあとのページには …

318

ダイヤルを回していた指先が 液晶画面のうえで震えている21世紀 出さない手紙はポストに舞い戻ることなく 部屋の隅で埃をかぶるだけ 木枯しにかかわる時候の挨拶がもう何回巡ったかわからない 日焼けした封筒 神さま あなたの電話番号も住所も知らないけれど…

317

月が替わる前 5日間の休日を前にして みな忙しげに 片付けをしている 何も死ぬわけじゃなしと思いながら 日々の暮らしに於いて しばしば身辺整理を行うことの非日常が 尋常になっていることに気がついた 帰り途 セールの案内が来ていた店へ足を運んだ 売れ残…

316

愛されるために生まれてきたのか 愛するために生きているのか 嬰児を抱きながら わたしは転寝する い草の香り 障子越しに透ける太陽の光が 柔らかく身体を包む 神さまの息吹きを おまえも感じているだろうか

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クレゾールの匂いが嫌いだ 階段を登って3階 詰所を右手に曲がり 生暖かい空気の底みたいな リノリウム張りの廊下をまっすぐ進み 突き当りの部屋に彼はいた 鼻からチューブを挿し込み ほとんど何も食べられず ただ生かされていた 会話することも侭ならなかっ…

314

特に意味のないことばを並べて はしゃぐ 風に揺れる 髪飾りのように わたしと彼女は 跳ねる その脚は とてもしなやかで 手は柔らかく あたたか

313

最終電車を待つ駅の待合に届く だれかの歌声 始発電車に飛び込んで届かなかった だれかの叫び 切り取られた永遠の一欠片を わたしは拾い集めて 浴槽に浮かべて あそぶ

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あの人と繋がっていられるから いざとなれば 伝えることが出来るから という理由だけで輪を抜け出さないのはつまり 媒体を失えば 途絶える程度の関わりであるということわたしは御姿を知らない 画面の向こう 或いは紙面の向こうのあなたに 気付いて貰いたい…

311

鉄琴の音色がエスカレーターに乗り 地下まで運ばれてきたので 折角ですから 外の公園で逃がしてやろうと 唇で啄ばみますと 勝手に脚がステップを踏み始めたのです 思わずふらついて 前にいた三つ編みおさげの女の子の肩に手をついてしまうと 彼女はショーウ…

310

泳げない君が口から泡を出しながら 手足を無茶苦茶に動かして もがいているのを わたしは川の底から眺める 太陽の光が さざ波でちりちりと流れ まるで黄金色の魚の群れのように見えるのに 気付いただろうか 穏やかな流れほど 深い 河の水は 冷たく 君の体温…

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歓楽街を歩けども声をかけられることなく無事に帰宅 のちに友人とメールのやりとり 生きている人間とは この世界で繋がっていられる 夜の闇と光の共有をすることが可能であるのは 素晴らしいことだ翌日 陽が高く昇ってから起床 布団を干す 閑静な住宅街では …

308

予定日を過ぎても産まれないと言うので では 3歳になったら太鼓を買ってあげるから とお腹を撫ぜたら じきに産気づき 私によく似た娘が産まれた そして 彼女は「太鼓ではなく 熊のぬいぐるみが好い」と言った!なるほど それも一手

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会社帰りに本屋へ寄り クリスマスにあげる最初の贈り物を探すべく 児童書のコーナーへ向かった 大きな本はつるつるした きれいなカバーがつけられているし 小さな本はぷぅぷぅ音がしたり ふわふわした布がついていてたのしいけれど 早く字が読めるようになれ…

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軽い気持ちで生きていられたら良いのに と彼女は頬杖をつきながら 溜息をつく どうして私の肉体が欲しいだけなのに 色んな御託を並べて誘うの 尤もらしい理由が必要なのはなぜ 無理矢理にわたしの心まで愛さなくたっていい わたしだって誰も愛してなんかいな…

305

高層ビルどころか コンビニすら10キロ四方に存在しない田舎町で その夜 彼女は自宅の部屋から飛び降りようとしたのだけれど 2階から落ちて死ぬには 心臓を貫くための尖った柵が必要だし 雨のベランダから見下ろしたそこは 濡れた芝生が広がり 街灯の光できら…

304

シーツを取り替えるために階段を何十段も昇り いちばん高いフロアにある防火扉を開け 湿気った暗い穴倉のような部屋に入り 手始めに陽に灼けて変色したカーテンを開けると 一気に光が差し込み 穴倉は寝台が並ぶ仮眠室に戻った わたしは窓を開け 澱んだ空気を…

303

小さな海で 真珠を拾って遊ぶ夢を見た 水が流れていた さらさらと 何処らへんだったのだろうか すぐ近くに港

302

ずっとまえ 安全を確保したうえで 山奥にある滝壺に飛び込んで遊んだことがある 岩の上に立ち 5m下の流れへ落ちるだけだから 真っ直ぐに水面を割ると さほど痛みもなく冷たくて気持ち良いし 眼を開けると 上のほうで 泡や太陽の光がきらきらと流れているのが…

301

いつかまた何処かで A女史に会う機会があれば 意外としぶとく生きられましたと伝えたいし 当時 対話をすることが出来たことについて 改めて謝辞を述べたい

300

夏 あるいは南のほう 暑い国にいる夢を見た 校舎のような鉄筋の建物は 窓から緑が溢れ出し 果たしてそこは 外なのか 内なのか わたしは友人を追いかけているが 階段を降りてきた葬列と遭遇してしまい 彼がその中の香炉かなにかを運ぶ女とぶつかり 白っぽい土…

299

臙脂色の革で作られた伊太利亜製の鞄は 金色の鎖がつき とても愛らしかった うっとりと眺めていたら 年配の女店員が 棚からおろしてくれたので 勧められるがままに手に取り 金属製の留め具を外すと 中は真っ赤な絹のように滑らかな生地が張られており こじん…

298

雪虫の雄には くちがないから 何も食わずに死ぬと 舞った雪が すぐに溶けるように 死んでしまうのだと

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出来の悪いのろまな子だった しかし「子は無条件に愛すべし」という信奉の家庭に生まれたので 愛されて育った 幼少期は幸福そのものであり 彼女の微笑みは 天使に喩えられ (ほんとうは潰れた南瓜に似ていた) 彼女もまた そうであるのだと思いながら 成長し …

296

アルコールでゆるんだ血液のような 暗い緋色の流動体 底に沈んだ金色のちいさなラメが 揺れるたび乱反射して とてもきれいだった いまはそのなかにいる

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買える幸せは買えばいい あとで買うか さきに買うかの違いなら はやい方がいい 買えないなら仕方ないけど 買えるものならば

294

主従関係を愛と呼んだり 呼ばなかったりするが わたしは奴隷を愛すことはなかった 奴隷は奴隷であり それ以外の何でもなかったからだ 彼にとってのわたしが 支配者である以外に 何の意味もなかったように

293

むかし AV女優が撮影後に貰ったという花束を飾った花瓶を 幾つも いくつも 部屋中の床に置いている画像を ブログに載せていて まるで 生花店のようになっていたけれど とてもきれいで なんとなく悲しくなったのを思い出した

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死ぬこと以外の方法で あなたが安らかに眠れたら 身体の機能を 嘗てのようにすべて万全に取り戻すことが出来たらば いいのに 無理なことなのだろうかいいえ 望めばなんとでも

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冬の公園で アイスクリームを食べた 鳥も動物も いなかった