Entries from 2015-11-01 to 1 month

289

泣いてるのに笑うからおまえの顔が歪んで 涙で凍えてしまうのか

288

もう部屋のなかにまで 水が漬いているのに あなたは目を背け 差し伸べられた 数多の手をとっては その甲に口付けをして 離してしまうのは 溺れるのを待っているからなのか わたしは それが耐えられない 彼の精神はもう誰の手にも届かない深淵にまで いってし…

287

干し葡萄やアーモンドを入れた 暖かな葡萄酒 それをルシアパンと一緒にいただくのが しあわせなひとときだった なにせ食べてばかりいたのだった 暗くて 寒い日々には それ以外になんの楽しみもなかった

286

病院で検査を受けたのち ロビーで会計を待っていたら 左の待合室では糖尿病の講習会が 右のテレビではニュースが始まった 罪は無に帰され 罰は覆されたという 会計を済ませて ふらつく足で電車に乗り 水を啜ったが 気分が悪くなり洗面所で吐いた 32時間ぶり…

285

アルコール無しの夜 食事も無し

284

もしも余命を宣告されたとしても 自業自得であるし ずっと死にたがっていたのに 何を今更 もう充分だったでしょうアリゾナの砂漠へ行ってもう死んだ 彼らや彼女らと共に 焚き火を囲みたい

283

カレンダーや時計が無い部屋で過ごす日々は 太陽の光と 風の匂いだけが頼りだった 平等に時間は流れて行ったけれど どうしようもなく自由で つまり 夜が来れば眠ることも 空が白むまで 星を眺めていることも出来た

282

上辺だけの下手な猿芝居を見て 心の底からうんざりする わたしが打った人生最高の茶番は 楽しかったけれど もうやりたくはない

281

12時間の眠りから覚めて 無かったことにする頭痛 起き抜けの一服は 身体に毒だと わたしは緩やかに死に近づく 枕元にはジャック・ダニエルの空瓶

280

星が見えないなら あかりを灯せば良いじゃない

279

あなたがわたしに向かって 微笑んでくれたらいいのに 愛してるとか 余計なことは何も言わなくていいから

278

気晴らしに小鳥は船に乗り オリーブ畑を眺めて また島に戻った 3日前の傷あとはもう塞がり どうということはないけれど 膿んだ傷だけは しくしくと痛む

277

信仰も無いのに諸人こぞりて 素敵な封筒が届き 私は破れないよう そうっと開けて 中に入っている大きな広告に溜息をつく 主なんか来ないし 先行予約は既に始っているし

276

霙になりそうな夜 まだ弛んだ空気がはらむ 致命傷になれない苦痛が ゆっくりと首筋をなぞり そのまま部屋のなかへ 沈んでゆく いっそ凍てついてしまえばいいのに 湿った真綿は じくじくと

275

病院の帰り路 映画館の看板を見つけた かつては古びた遊技場の上にあったのだが 外壁が直されて こ綺麗な場所になっていた初めてのデートは 映画を観ないほうが良いと 今では方々で言われているけれど 映画くらいしか 手早く ふたりで楽しめる娯楽が無かった…

274

あまりよく知らない男の子と別々の布団で眠る夢を見た 薄暗くて 物や箪笥が雑多に並べられた狭い部屋は 木戸の隙間から 白熱灯の明かりがひとすじ差し込んでいる 布団と布団の間は5㎝ほどの隙間があり 畳の上にはみ出した彼の手をそっと握った すこしだけ愛…

273

また彼女と会う日がくるのだろうか 彼女はどういう気持ちでわたしと会うのだろうか 順番を間違えただけなのだ 釦の掛け間違いをしていただけなのだ

272

新しい上着は別珍の襟 毛皮で作った帽子かぶり 枯葉が浮かぶ湖のほとり 歩く 午後の陽射し 春に似たひかり 狐の嫁入り それはおまえ 修羅の涙

271

彼は学生が提出した論文を読むように わたしの書いた掌編を読むと「共感を得ること それが他者に受け容れられる方法だ」と言った 少数から多数まで 読者の心を捕らえるには 共感させるのが最適だと 付き合いはじめて 半年ほど経った頃 文学者の恋人に教えら…

270

清き流れは海へ注ぐ その出ずるところや何処 碧い眼の船乗りは 港の無い街で 朝陽のような酒ばかり飲んでいた 浴びるように 鮮やかに

269

遠くに暮らす青年から無事の沙汰 手を下しさえしなければ 生きられるものだ 逃げられる限り 逃げたらば佳い 終わりはいつも孤独

268

忘れてもいいし 忘れなくても いいよ 消えてしまった あなたの顔が やっぱり思い出せない けれど 必ず見つけ出せると思うの どこにいたって きっと

267

数週間ぶりに降った雨 錆びついて破れた傘の骨 静寂を失った青い屋根 その下で休めない君の羽根 嫌なことすべて忘れてやり直せ 次はきっと上手く飛べるだろう 次はもっと高く飛べるだろう

266

燃え上がる一晩限りの情熱の連続で あなたの生涯とはつまり 炎に包まれていた なんて美しいんだろう 肉体が燃え尽きて 灰の中から金剛石が拾い出され その永遠なる輝きこそが あなた自身だったというのに

265

めまい ふるえ 吐き気 それから希死で 欲しくもない名前が与えられたり カテゴライズされたりする ボルシチが食べたい

264

動悸や眩暈が起こる症状にも 胸が苦しくなる感情にも 名前をつけられるのは その経験が共有されることが可能であると前提としているからなのか わたしはおまえではないし あなたもまた 誰かではないのに

263

なんだってよかった ただむしゃくしゃしていただけで わたしはひどくいらだち なにもいいかえさないでいることだけに じんりょくしていた

262

祝日 雨 雲間 雨 テントの下に陳列された 大輪の菊 菊 菊 子供のころ うちの年寄りは菊人形を観にゆくのを とても楽しみにしていたものだった

261

だんだん短くなってゆく陽は 枯葉にその鮮やかさを託して 夜に消えてゆく 水辺はもう色彩を失い 水銀のように凝ってしまった

260

もっと もっと深いところまで 埋められたら良いのに 痛みもないから わたしは泣く機会も無い