Entries from 2016-10-01 to 1 month

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幼いころ 絵本で読んだハロウィンに憧れていたけれど まわりの大人は誰も知らなかったので せめて 南瓜の炊いたんを食べたいとねだったが それは冬至に食べるものだと言われたのだった その通りだった ハロウィンイベント開催中!! スタッフに声をかけてね お…

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金木犀のシロップを今年も作れないうちに花が終わってしまった 透明な流動体のなかで浮遊する橙色の星に似た花を眺めたかったのだけど 雨が続いてしまったのが悪かった 甘い芳香の雫で庭は濡れ そのまま流れていき また少し冬に近づいてゆく 唇が乾いている …

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街の隅にあるちいさな映画館 あなたはまだ覚えているだろうか 地下街で待ち合わせて ふたりで食事をとり (その店はもうない) 歩いて訪れた 遊技場の二階にあるこじんまりとした映画館のこと そこで見たチェコスロバキアの 燻んだ しかし鮮やかな色彩の映像 …

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台所の椅子に座った彼女は固いリボンの結び目を 爪でそっとつまみながら解くのに四苦八苦している その次はきっと 包装紙が綺麗に開けられるよう やはり爪を使って 紙が破れないように注意深くセロファンテープを剥がしてから開け 折り目を伸ばして それから…

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このまま忘れてくれたらいい ただの間違いだったと思ってほしい つまりわたしはあなたの思うような優れた人間ではないし むしろ不誠実であることを 受け入れなくていいから わたし自身を否定してほしいと思う恐らくそれは結果であり 報いでもある まだ終わっ…

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酔うても 酔うても まだ呑み足りぬ 蠍座の男の子と恋をしたのは どの夏だったのだろう テキーラのように刺激的で 太陽のように燃える情熱で溢れていた 不死身の少年は海も砂漠も越えて あちらこちらに口付けを残して次の街へゆく 陽に灼けた肌が白さを取り戻…

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雲の切れ間から太陽が覗くと 雨雲は千切れて 細切れの綿飴になった ベビーカーを押しながら歩く濡れたアスファルトは 少しだけ夏のような匂いがしたこれまでに一度くらいは 新しい家庭をつくるということに関心があったし 恐らく間に合うならそうすべきなの…

618

口腔に挿入された管な先にあるカメラを通じて 映し出された内臓を凝視する どこまでも続く肉の道 嗚咽を堪えながら力を抜くのは難しい 喉の奥に痺れ

617

20年来の友人と昼下がりの街を歩きながら話していたら 美しいものが純粋に絡み合うよりも 醜いものと美しいものが猥らに交じりあうほうが 背徳的であり 好ましいという結論が出た わたしたちふたりが 交友関係を続けているのはその感性を共有できるからなの…

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先週生けた薔薇は燻んだ桃色 水に溶いた絵の具にほんの少し黒を混ぜた色のままで 幾重にも重なる花弁を開かせていた このまま花の時が止められたらいいのに ドライフラワーにはしたくない 色褪せた屍のようで悲しいから 綺麗なうちに食べてしまいたい 卵白を…

615

おやすみ&モーニング・コールと状況確認のメール 君の声が聴きたいだなんてやめて 話すことなんか何もないし 楽しい噺を出来ないから 愛されるときの喜びかたを知らないのは 然るべき段階に 経験すべき事柄をし損ねたせいで 取り戻すには純粋な愛が必要なん…

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震えている睫毛の下にある瞳がほんとうはなにも見つめてはいないこと 心がもはやそこには無いということ憶えたての歌は 知らない国の言葉で 初めて聴く旋律で奏でられるが それがどういう意味なのか知らない 道端に咲く花の名前がわからないままに可憐である…

613

献血に行くと 何度か抱いたことのある女の子が看護師をやっていて 僕の採血担当になった 白衣を着ているのを初めて見たので いや そもそも何処で何をしているのかすら知らなかったから驚いた 彼女が何処を愛撫されると悦ぶか知っているのに 素性らしいものを…

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眠ることと同じくらい入浴が好きであるのに 憂鬱が酷いと 眠るのが難しいように 服を脱ぎ 浴槽に浸かるという動作が出来なくなる 温かいお湯に浸かるのは ほんとうに気持ちよいものではあるけれど入浴剤は 色んな香りがしたり 泡が出たり 色が変わるのが好き…

611

次第に口を閉ざした彼女の溜息眼に見えない欠陥 または欠落した感性のこと 気をとられている間に 定時は迫る 噛み合わない議論よりも 新しい化粧品とお菓子の話をしたい どちらも結論が無いとわかってるなら ノエルのコフレについて話せばいい どちらにせよ…

610

戻ることを願う日々がないことは幸福であるのか 何処まで行っても平坦な道が続くこの街から見えるいちばん高い山に登ったことはない 学校を出たら 公務員になった幼馴染と結婚して 自転車で通える距離にあるスーパーへパートタイムで働きながら 自分が通った…

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ゆうべ買った薔薇は くすんだ色味が綺麗で気に入った 香りが良いと札に書いてあった割に あまりわからないが とにかく可憐なので好い 名前は忘れてしまった あまりに素敵な色に見惚れてわたしはそれを 水揚げしたのち あまり短く切らずに グルジア産の炭酸水…

608

よく晴れた寒い日 時計の短い針が1と2の間を指す頃に 静かな公園を歩くのが好きだ 芝生でも砂利道でも構わないけれど 背の高い常緑樹 それも広葉樹が生えているといい 樹々の間に降り注ぐ白っぽい光がとても美しいから 草叢から小鳥の囀りを 遠くに小川のせ…

607

わたしはあなたが見る幻 思想も哲学もない空っぽの器 寄せ集めで作った歪な形 夢のなかでだけ動くことが出来る骸を 愛でることを恋と呼ばないで真夜中にひとりで泣くことは 深呼吸するようなもので これといった理由はない 死を想うことが日常生活の一部であ…

606

心に穴が開いたら埋めればいいじゃない マリアナ海溝のように深くても 傷を満たしてゆけばいい あるいは金とダイヤモンドで塞ごう ナイフで切るのはもうやめた わたしはまた胸に金属を埋める あの人のことを忘れないでいるために貫通してしまえば 何かが永遠…

605

洗濯のち よく乾かしてから 衣装ケースに夏服を片付け 代わりに秋冬の服を出した 半透明のプラスチック製ケースのなかに畳まれた軽やかな薄いワンピースたちが収まってゆく 色とりどりの花柄 または水色 藍色 紺色 あるいはそれらの色が混ざった格子柄の生地…

604

合コン必勝法で覚えた技術と知識をもとに わたしは完全な良い女になる 着飾って髪をまとめ 化粧をして にこにこしながら適当なタイミングで相槌を打つ 煙草は吸わない お酒は細いグラスに注がれたブルーのカクテル それがわたしに似合うから いいのよ味なん…

603

花を買うはずが 球根を買った 阿蘭陀生まれのちいさな球根 木箱に山盛りになったなかから欲しいだけ幾らでも選べるなんて素敵暗くて寒い冬が怖い どうして人間は冬眠出来ないのだろう 今はまだ暖かさが残る土も じきに凍って雪の下 木々の葉が紅葉して散って…

602

或いは幸福になれるだろう 少しくらい鈍なほうが扱いやすいし 不器用だから浮気なんて出来ないし 外見は大したことないほうが安心だって言うし ね ほら そろそろ落ち着いて身を固めたほうが Mちゃんなんてもうお子さん2人目よ SくんもTちゃんもちゃんと家を…

601

ラメ入りのマニキュアは冬にHちゃんがくれたものだった ゆめみたいにきらきらしていて素敵なのだけど 剥がすのが少し億劫で とっておきの時しか塗らなくなってしまったユニコーンとか ふわふわのぬいぐるみとか カラフルなペロペロキャンディとか パステルカ…

600

朝の蒼さを愛していた 肌は白磁のように滑らかに 血は紅く燃え 硝子は透明であった 喧騒の名残を乗せたドイツ車が首都高速道路を走り わたしは助手席で海を探した 波の音や 潮の香りを感じたかったので あなたがいなくても わたしがいなくても 夜は明けるか…

599

スクリーンに映し出された河の中を泳いでいる無数の小魚たちは 群れになって まるで高速道路を時速100キロの法定速度を守りながら走る自動車のように 鱗をきらめかせ 何処かへ消えてゆく 時折あぶくが銀色に光る 淀みのない河の流れがとても速いことを教えて…

598

何かが起こるのはいつも突然のことで 幸も不幸も一度にやってきたり 去って行ったりする 彼女が死んだのは何年か前の夏至の頃だったのに 誕生日が来るたびに SNSのタイムラインには去年と同じ顔ぶれが並び 「お誕生日 おめでとう!」と書き込まれていて わた…

597

夢のなかで彼女は 柔らかな肌をもち 艶やかな髪を結わえて しかし 透明であったニューカレドニアなら 階段を降りてすぐ 右に曲がって 角の部屋にある 白い砂と椰子の木が綺麗だから一度行ってみるといい 時計が12時を示したら 夏と冬が入れ替わるので 新宿御…

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それほど遠くへ行ってしまったわけではない友人と ほんとうに遠くへ行ってしまった友人の誕生日が同じ日であったことに気づき わたしは笑っている 彼女もきっと笑うだろう ふたりともほんとうに優しい人だった 誰も彼女らの真心を踏みにじったり 利用したり…