Entries from 2018-11-01 to 1 month

1384

歩くたび枯葉がかさかさと音を立てている公園の小道を 朝のひかりが穏やかに照らしだすと 梅雨で濡れた落ち葉が金色に輝いて見えた ほとんど風は吹いていない 見上げれば白む空 黎明の青になるまえの 昨日を飲み込んだ夜の闇が遠き山並みへと消え去ったばか…

1383

日々の暮らしに専念するうちに 生温さを求め やがて鋭い水晶に触れることすら恐るようになるのか 若者たちは不安な素振りを見せずに働いている それは居場所があるから

1382

伐り倒された梅の老木は倒れてなおも 真っ直ぐに伸びた枝を伸ばしていた まもなく重機で運ばれてゆくだろう かつてここらは住宅街のなかに残された最後の畑があり その端に大きな古い白梅の木が植えられていて 雪が降ると一面の銀世界がひろがり 葉を落とし…

1381

遠くに広がっている光の壁はマンションだった うんざりした顔が車窓に並んで映っている 期限つきの思い出作りは証拠を残してはいけないので レシートも お店のカードも シュレッダーにかけて食べてしまおう ぱりぱりぱり 骨が砕けてゆくわ 愛していてもいな…

1380

今年の冬は温かいらしいよ なんて噂に安心してたけどやっぱり寒いのは寒い 息を吸うと鼻の頭がつんと痛くなって 狐の襟巻きを巻いた首をすくめた イルミネーションが輝いてる夜の帰り道 どこからか聴こえてくるマライア・キャリーの歌声 今すぐ会いに行きた…

1379

正しいとか間違いとか ぜんぶ虚言だとか 近頃では本人もわからなくなってきたらしい あなただけに教える真実を知りたくはないし 目に視えるものすべてが事実だとも思わない あなたの奥さんと友達になったのと妖しく笑う女を止めるだけの潔白さをもたない男が…

1378

白いニットのワンピースを毎年試着して結局買った試しがない というか今年も似合わなかった アラン模様がすてきなのだけど 少し大きすぎて柔道衣のようにも見えるし 長すぎる袖は実用性に欠けるので 良いところといえば値段だけだった 買わない理由が値段な…

1377

ろくでもない夢を見て 笑い飛ばすために話したら 予想通り笑ってもらえて良かった 今日もたくさん歩いた それでもまだ 足りなかった わたしたちには時間が足りない 空白を埋めるために話がしたい あるいは沈黙したい 空白のなかにいるとき わたしたちは同じ…

1376

ハニー 今日からあなたをそう呼ぶわ ぐるぐる回るメリーゴーランド あなたは振り向いて 何て言った?と聞いたので いいえ なんでもないのと答えた そうよ なんでもないの似たような家が並ぶ住宅街を通り抜けて シェパードの話をした 北国ではみんな番犬に飼…

1375

送り忘れたメールのことを明日に思い出せるだろうか もう送らないでもいいかもしれない 今更 どちらでもいい 忘れているだろう朝 あなたのために祈ることを辞めてからも健やかな気持ちでいます 元より祈ること自体が病むもととなっていたので あなたのことを…

1374

ほんの少しだけ早く起きた 仕事を休んだ朝日の出が遅くなったせいでまだ薄暗い庭に 枯れた花を埋めて 新聞をとり やかんで水を沸かして白湯を飲むと 鳥の鳴き声とどこかのうちの雨戸が開かれる音がした買い物へ行き 昼は外で食べた それから病院へ行き夕方 …

1373

わたしはわたしが心配しなくてもいいひとたちのことを心配することを辞めたほうがいい 見返りがあるとかないとか以前に わたしがやらなくても他の人がいるので というか わたしでなくてはならない理由がないなら 放って置いても枝葉は茂り 魚たちは産卵し 残…

1372

予定していたことの半分しか出来ないのは昔からなので 半分出来たら良しとしておくシネマ・コミック8 平成狸合戦ぽんぽこ (文春ジブリ文庫)作者: 高畑勲出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2015/01/05メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 何度読んでも…

1371

雪虫が飛んでいた急に寒くなったので 身体を温めるものを コニャックでもひっかけようとバーに行き ふいにJのことを思い出した 彼とは東欧の地方都市であるOから鉄道で工業都市Kを経由し 首都Wを目指したときに車内で偶然知り合った男だった 年齢も職業も…

1370

どこで暮らそうとも近くには水辺があった もしくは 水辺の近くで生活が営まれていた バプチャやマトカの故郷は貧しい農村で つまり彼女たちのやり方を見て育ったわたしもまた その貧しさがあたりまえのことであったから 緑かがやく森さえ信じて なにも知らな…

1369

電車を乗り継いでは降りるたびに 空気が冷えて澄んでゆく 夕焼けの橋を渡り これで今日は終点まで景色を眺めるだけとなった 高架に敷かれた単線の路を焦ることもなくゆっくり走りながら通り過ぎる人気のない停車場 その待合室と呼ぶには簡素すぎるトタン屋根…

1368

話すことがなくなってしまった午後 旧知の友人とベンチに座り ぼんやりと空を見上げて「なんだか老後みたいだね」と言った 老後なんてまだまだずっと先のことで くたばるまで働き続けなきゃいけないんだろうけどいつかわたしや彼のこどもたちにまたこどもが…

1367

マシュマロ入りのココアを買った お湯を注いで混ぜているうちに溶けてしまうくらいちいさなフリーズドライのマシュマロが入っていて マシュマロを先にスプーンで分けておけば後から入れて少しは楽しむことが出来る もっとも何を食べているかはわからないくら…

1366

空になった瓶に新しい花を生ける なるべく日持ちがする緑が鮮やかな枝葉クリスマスカードを用意すること 併せて近況を知らせる写真も1〜2枚 なるべく楽しそうで 眼が赤く光っていたり指が写り込んでいないもの義弟の誕生日のために3の形のキャンドルを買…

1365

湖へ行った とても良い天気で雲ひとつない青空が湖との境界線を曖昧にして とけこんでしまっていた わたしと兄は砂浜を歩いて いくつかの貝殻を拾い 投げて また湖のなかへとかえしたり 乾いた流木を踏んでぱきぱきと折れる音を楽しんだりした 途中 砂浜がち…

1364

秋のことは好きでも嫌いでもないけれど いつのことかがいつもおぼろげ たぶん紅葉がはじまった今がそうなのだけど このところ少し暑すぎる 過ぎていった季節は恋しくなるもの

1363

ハート型のサブレを買った 明るい彼女がとても元気を失くしてしまったので それはあまりに悲しいことだから ちょっとやそっとで元気にならないかもしれないけど 少しくらいは

1362

清潔で整頓された部屋で 規則正しく 耽美に生きていたい 白い漆喰の壁 大きな全身鏡 金色に塗られた額縁のなかには乳白色の裸婦がふたり 窓から見える景色は青空と遥か遠くの森であってほしい すべてが完全なる秩序のなかにあること

1361

今際の際から戻ってきたひとが 河のような景色を見たという話はよく耳にするけれど 戻らなかったひとはいかに?ヒンメルの山あいにあるちいさな集落は とても寒いので一年のうち半分は雪に包まれている 短い夏はしかし 陽が沈むことがないので人々は毎晩のよ…

1360

あまり話したことがなかったひとが死んで はじめてそのひとのプライベートなことを知り でも きっともう思い出すこともないのだろう 「3日もすればみんな忘れちまうんだ まるで最初からいなかったみたいに 寂しいもんだな」と男は言った みんな口にしないだ…

1359

10年前に知り合ったひとの歳を追い越したけど 彼女は間もなく誕生日を迎えるので追いつくことはない そうあってほしい これからも情熱的なひとだった たぶん今も変わらない しなやかで軽やかという言葉のように生きていて それは彼女が美貌に恵まれていたか…

1358

宝石店へ行く 若い男女や それほど若くはない男女が大勢ショーケースの前で仲睦まじく並んでいたので あまり邪魔にならないよう端から見ていたら 愛想の良い店員が声をかけてくれたので ネックレスを出して見せてもらった 金具はプラチナかゴールド 石は無色…

1357

日が沈むにつれ 部屋のなかの空気がしんと冷え込んでいくのがわかる 西陽が途絶えた庭を見ると槙の木の垣根が切り絵のような影を落としていた 子どもたちの叫び声と笑い声 砂利道を駆けてゆくときの石と靴が擦れ合う足音が聞こえる わたしは諦めて眼を閉じる…

1356

痛みがながく続くので ぽろぽろと愚痴をこぼしていたら そうよね 人間の身体ってある時から進化してないものねぇ と慰められたので 早く光合成が出来るようになりたいですと答えたついでに単為生殖も出来るようになればいい明日は半分に折り目をつけた紙に絵…

1355

山の法面に建てられた住宅街の灯りが 段々に並んで輝いて 遠い山並みがきらきらして見えた まだ夕方だったかもしれない 時間の感覚がわからなくなって それは朝だったような気もする