Entries from 2017-02-01 to 1 month

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悪魔が契約を見直そうという これまでの業績を鑑みるに 僕の腕前は魔界での評価がすこぶる高いらしい 名誉ある地位 庭付き一戸建て 自家用車 あたらしい家族との生活 「彼女 早くドレス着たいんじゃないの」と悪魔が囁く 「悪い話じゃないと思うよ このご時…

744

買わない理由がないのに我慢したいから 大好きなA君が好きじゃないって言ったらとか 憧れのB先輩が流行遅れだって笑ったらとか いろいろ考えてはみたけれどそれでも欲しいし もし苦手なC先生が似合うと褒めてくれたなら 彼は最高にセンスが良いひとだって思…

743

あなたの朝陽とわたしの夕陽を共有している昼過ぎ ひかりは濁りながら沈んでゆく 知らない歌ばかり聴こえる部屋で 花瓶から溢れ出したちいさな花は秘密の色をしていて可憐だ わたしは窓から渡り鳥が飛び込んでくるのを待ちわびている 寒さで指先が冷えるのも…

742

街はもう春風が吹くたびにショーウィンドウのレースが揺れている 新しい下着が欲しい レースで出来たワイヤー無しの ああ それは何の役にも立たない! ただの飾り 誰に見せることが無くたっていい 水色のレースで作られた下着が欲しい わたしが楽しむためだ…

741

女給時代に支配人が言った「アイキューハチヨン」という言葉が忘れられない 今度は 騎士団長が殺されるというし わたしは車屋でだって働いた 鈍間 白痴と罵られ 神経がすり減ってゆく 「お客さんにねぇ 話ふられたら返さなきゃ駄目だよ ちゃんと新聞読んでさ…

740

明瞭になりかけていた輪郭が 再び朧げになっている 何もかもが遠くにあるようだ 触れているものでさえ 其処にはないように感じる 冬の残り香が漂う夕暮れに 何処へ行けばいいのか 安値いりぼんで結わえた髪を風が撫でてゆく 今はもう寂しさすら感じない なん…

739

日々どれだけのことを憶えて 忘れてしまうのだろう 大して困ってもいないけれど 例えば記念日はほとんど忘れることがない でも西暦が覚えられない 歴史の試験ではそちらの数字が重要なのに そして道順 一度歩いたところなら迷わずにたどり着ける でも人の顔…

738

詩だとか氏じゃないとかもう死んだとかどうだって良いなら 何も言うべきではないかもしれない そもそも見ても聴いてもいないのだ たぶん誰だって言葉を選んで大切に扱っているであろうことを前提に思いたい でも大切にするってどういうことなんだろう わたし…

737

北の果てに暮らしているので春が来るのが遅い 本当はもう 黒いメルトンのロングコートなんか着たくない ブーツじゃなくてパンプスで歩きたい 水玉模様のワンピースにイタリア製のコットンカーディガンを合わせて街へ出たいのに外が寒い 花瓶に生けたアネモネ…

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14日ぶりに献血へ行った 初めて行く場所は少し緊張するのに やることは同じだから不思議な気分になる 痛いのは嫌いだけど インプラントを埋めたときも 自傷をしたときも 大して痛いとは思わなかった ただ 金属が皮膚や身体の一部を貫通するのはなんとなく怖…

735

泳ぐのを辞めた人魚の貝殻ビキニをつけて 無人島で過ごす7日間 楽園のようだった世界が地獄に変わる孤独 今すぐ単為生殖したい 白い砂の眩しい浜で 泣きながら吐き出す無精卵で血が流れる なんという悪意に満ちた秩序なんだろう

734

S駅を8:00丁度に出発し それから汽車を乗り換え 西へゆく新幹線に乗った 指定席は二列シートの窓側 海は見えたり 見えなかったりする ほとんど山の際を走るから 胎内回帰願望が叶わないなら 原点回帰を実現させるほかどうしようもないので かつて恋に落ちた…

733

目覚ましを止めて うつ伏せになり 膝をついたら背骨を伸ばし 肩をならす そのまま手をつき おでこを枕につけ 両足をゆっくり上げる 脚を揃えてまっすぐに そのまま60数える Une, deux, trois, quatre, cinq... ... soixante. 足をゆっくりおろして 毛布から…

732

「神さまの前で跪き告白する 懺悔する 祈祷する あの人が呼ぶ名前だけが真実で 愛が信仰のすべてだとしたら 何にもまして浄福なことはないのに わたしはいまだにヴォトカ流れる河のほとりで 対岸に消えたひとの面影を追い続けている 河の水が乾いて その姿が…

731

刻んで溶かして冷やして固めて かけた手間を愛情と呼んで 押しつけるのやめて ハートの砂糖 シルバーの粒 ココナッツ アイシングで描く彼女の気持ち 放課後の部室で試食しようと言って手作りチョコレートを幾つも食べた 雪の日 ね〜美味しいよ うん 絶対大丈…

730

沈まないし 澱まないし わたしは透明 冷たかったり熱かったりする 流れるように生きているけれど 流されてはいない 今のところはたぶん 何処かへ行く予定はない 誰かと一緒になるつもりもない だけどいつだって準備は整えて置かなければ そういう気持ちで暮…

729

日曜日の身体を軋ませながら 37.1℃の熱が通り過ぎてゆく 湖岸道路沿いには菜の花が咲き始めたらしい 去年買ったセーターは空色の毛糸で編まれていて たぶん黄色い花畑に似合うだろうと思う

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彼女も好き 彼も好き でも同時にふたりは愛せなくて それ以上でもそれ以下でもない 男も女も国籍も様々な者が集う場所で 互いに気に入った者同士 口付けを交わした彼女は欲望に忠実で ある意味では誠実だった 無理矢理に受け入れる義務もなく あらゆる感情を…

727

尼僧の顔や全身を覆うベールというのか 黒い柔らかな布の衣装 それは慎み深く敬虔な色をしている 彼女はまだ若い とても若いが何処か諦めたような 憂いが漂う表情をしている 色素の薄い肌は瑞々しく 瞳はやはり薄い鳶色で いや 蒼色だったかもしれない 鼻の…

726

コンディトリーのショーケースに並べられたケーキ ピンクや緑色のマジパンで包まれたカラフルなバーケルセ そして山積みになったメレンゲ そう ひしゃげた雪玉をいくつも重ねた山に似たメレンゲが一番好きだった 卵白と白砂糖で作られた白いお菓子 柔らかく…

725

引き寄せるのか 引き寄せられたのか 忘れていたことでも必ず果たされること 予め定められたわけでもないのに 何年 何十年ごしでも生きているかぎり 願えば叶うのかもしれない 記憶の片隅で求め続けていたのならば 或いは実現させることが出来る そして恐らく…

724

寝台のうえ 電燈のした 染みだらけの天井 乾いたが しなやかな肉体 短く整えた爪の指でおまえの髪を梳く わたしは毛布をかけながら 頸だけを動かして口付けを交わす 冬のおわり 春のまえ まだ固い花の蕾が幾多も増えたけれど 未だに庭の雪は白いおまえの指が…

723

感冒が蔓延しているので部屋のなかから ひとり またひとりと隔離されてゆく 酷い熱が出たという男は 今朝ようやく帰ってきたばかり 学生生活も残り僅かなとき 恋人の母親が還らぬ人となり 彼の実家がある村 -そこは初めて訪れる場所であり 彼自身も久々の帰…

722

白っぽいぺたぺたした水気の多い雪 濡れるから嫌だなぁと足早に石畳を歩き 門扉を開けると 先生が男の人と何やら話していた挨拶を交わすやいなや これは霙というの? と 先生が尋ねるので はい霙です と答えると ふぅん と彼女は眼を丸くし 男の人はほらね …

721

お告げはないけど旅行に行こうと思う 思い立ったが吉日 行き先はわからない 神さまは何処でもいいよっていうし ダーツが無いから阿弥陀籤 紙と筆記具だけで出来るなんて冴えてる ぜんぶ雪のせいにしたい ぜんぶ

720

いつかの春休み わたしは20歳の誕生日を大好きなひとと学生寮の共同台所で ふたりきりで迎えた 夕食後のたわいもない会話 まどろみのなか 日付が変わってすぐに彼女は お祝いの言葉とロザリオをくれた 憧れていた異国の地で 窓から見える景色も 吹きこぼれた…

719

服屋の店員は何処かの劇団の座長みたいに慇懃な笑いかたをしながら 手もみをしていたけど 給料3ヶ月分くらいのドレスは 本物の毛皮みたいに毛並のよいプリントで とてもかろやかな生地をたっぷりつかい 歩くたびに裾からアンダースカートのレースが覗くとい…

718

あたらしい駅が出来るという 近いうち 田園地帯はマンション建設の用地として 白い板で囲まれてるだろう 水路にはコンクリート製の蓋がされ 納屋の代わりにコンビニエンス・ストアが建てられるだろう あたらしい街は政令指定都市のベッドタウンとして機能す…