Entries from 2017-01-01 to 1 year

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鐘の音が聞こえ始めた そろそろ眠りたいと思うけれど 物心ついて以来 夢のなかで年越しの瞬間を迎えた試しがない そろそろ寝たっていいと思うのだけど 家人が蕎麦を楽しみにしているのでなんとかあと少し粘らねばならない ✴︎ ✴︎ ✴︎ 2017年も『ヴォトカ流れる…

1050

あなたの御心によって浄められた むせかえるような歓喜のうちに迎えたまどろみのまま あなたのもとへ逝けますように

1049

降りしきる雪があたりを白く埋め尽くし 屋根から落ちた雪で玄関がふさがった時 わたしたち兄妹は諦めることと 救いようのない絶望を思い知らされた なんという酷い年だったのだろう オイジェツが夏に出稼ぎへ行ってから戻らないまま冬が来て マトカは野良仕…

1048

ブラシが壊れたので新しいものを買った それにしてもブラシが壊れるなんてこと思いもよらなかったのだけど 実際に髪を整えていたら プラスチックか何かで出来たブラシ部分が土台から外れてしまって 以来まともに使えなくなってしまったのだ 新しいブラシは土…

1047

カナリアイエローの下着をオーダーしたのは シビルの水着がセパレートタイプのキイロであることを思い出したからだった マティーニをもう一杯飲みたい あの夜も あくる朝も 部屋にはそれぞれ違う男のひとがいて そのどちらとも寝なかった ある意味では彼らは…

1046

数日前から向かいの家で飼われている犬を見かけないと思っていたら 郵便受けに年内で期限が終わるスーパーのクーポンと一緒に 今月半ばに死んだということを書いた手紙が入っていた 小さいけれど大人しくてあまり吠えない犬だった そのせいかあまり印象に残…

1045

透き通ったガラスと銀で出来た首飾りをもらった わたしには銀色があまり似合わないと思うのだけど 紺色のケースのなかでそれは星屑のように煌めき とても素敵に見える むかしは指輪や耳飾りもよくつけたものだけど 最近はめっきり飾らなくなってしまった 貴…

1044

街中を彩る何十万個もの電飾よりも 空へ手を出して伸ばすように枝がひろがったミツマタの木々は 落葉樹の森の中でも極めて美しかった 寂寥の季節 立ったまま眠るように伸びた木立 蔓だけが残った葛 夏には覆い茂る草木で隠れていた社 河の色は翡翠色に澄み渡…

1043

椅子から下ろした足の踵が床につかない時から珈琲を飲むのが好きだ 砂糖を入れるなら飲んではいけないと言われたので 大人の真似をしてブラックにするか たっぷり牛乳を入れて飲んでいて今も変わらない 味について特にこだわりはないけれど 唯一好きで買う豆…

1042

愛するひととどうしても結ばれないとしたならば そのひとの幸せを願うより 他に為すことはありません 一緒に生きてゆかれなくとも どうか さいわいであれと心をこめて 春には雲雀のうたごえに夏には冷たいわきみずに秋には木々のこもれびに冬には煌めくほし…

1041

わたしはとても疲れている 神経は尖ったサボテンの棘のように細くて 折れやすく過敏になり 事あるごとに自分自身に突き刺さっている 思うようにならないのは仕方がない 打つ手を考えねばならないだろう 遅いとしても 試さないよりはマシだ

1040

レールを押さえるのに打ち込まれた犬釘はすっかり錆びて 枕木自体もかなり朽ちてていた 苔生した停車場は使われなくなって久しい ふるさと という単語から連想するのは うさぎ追いしあの山であり 小鮒釣りしかの川であるのだけど そんなものはもう殆ど無くて…

1039

「誰かのために無理をするのも 我慢をするのも辞めたほうがいい 報われることも救われることも求めるな 過ちに気付いたなら自己弁護に専念すること 何事も狡猾に しかしそれを悟られないようにしなければならない 他人は踏み台 脚を引っ張られないようにしろ…

1038

客間を片付けていたら古い腕時計を見つけた ちいさな濃紺色の文字盤に金の数字 ベルトは少しよれた細い黒色の革で出来ている 針は動いていない いつから止まっているのか それよりもいつからあったのか はたまた誰のものなのだろうか? 文字盤の裏には家族の…

1037

去年の冬 無色透明の湯舟 浴室は白く清らかでなければならない 爆発するだろうか?桃色の重層は泡を弾けさせながら ゆるやかに溶けた 眠れよ 愛と現の狭間で

1036

思いもよらないところで 思いがけないひとに遭った 停車場でバスを待っていたら 曲がり角から昔の恋人が現れたのだ しかし例によってひとの容貌を覚えられないので不確かではある もしかしたら他人の空似だったかもしれない わたしは驚いて目を丸くしている…

1035

あのひとのことを段々思い出せなくなる 笑ったときの糸みたいな目とか 日焼けした逞しく腕とか 大好きだったのに どんなだったか言葉でしか覚えていない 忘れることと思い出せないことは似ていて でも思い出せないほうが悲しい そうして思い出せたことは と…

1034

雪が降ったが昼前にはみな溶けてしまった ふかふかの白い綿あめのように降りしきった雪が 優しく身体を包んでくれないことも 街を埋めつくす白さが高潔である一方で悪魔のように残酷であることも ここらの人ならみんな知ってる

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誰かがその女を探しているらしい 構内放送で繰り返される名前 とても珍しい苗字と (もちろん発声されるときに漢字がなんであれ問題ないのだが) 初見では正しく読むことは難しい古風な名は 一度覚えたら忘れられることがない印象的な不思議な響きを持っていた…

1032

クリスマス 家族への贈り物はちょっと良い肌着か靴下と決めているのだけど それでもなかなか種類が多くて迷ってしまう 別に贈らなくてもいいし 祝う由縁もないのに 街中の飾りは綺麗でわくわくするし ギフト用の包装紙は華やかでつい 何か包んでもらいたくな…

1031

カレンダーをもらった 自分の部屋に飾ってはいないのだけど家の中に毎年 同じ会社のものを飾る定位置がある それは国内の風景写真が全体の6割くらいに印刷され 下には1ヶ月分の日にちが書かれているシンプルなデザインだ どこかの絶景とか 珍しい花や鳥が写…

1030

また何処かで会うかもしれないし もう一生会わないかもしれなくても 二度と思い出すことがなくても大したことないじゃない どうせ百年後にわたしがいることはないし なんらかの事情で存在が抹消されても 実在していた そのことを知っているのは自分だけで充…

1029

先祖の供養が如何に大切であるか 老婆は熱心に話し 若者は曖昧な笑顔で生返事をしていた 成功したいなら 富を築きたいなら 祈りなさい 感謝しなさいと彼女は嬉しそうに 地獄の苦しみを味わいたくないでしょう あなた ××みたいに×人も殺したら千年地獄で過ご…

1028

今夜はとても冷えている 雨が降り出せば雪に変わるだろうが 空には満天の星が光り輝いているので その心配はいらない 街へ働きに行った者の何人かは 既に村へ帰ってきていたが 春からまた更にこちらへ戻ってくるという 更にその内何人かは家族を増やしている…

1027

車窓から見える景色は夜 光のない世界が広がっている なんだってそんなに暗いのだろう 月も雲に隠れて 柔らかな背もたれの椅子がある車内だけは煌々と明るく 眠ることもままならないのに

1026

囲炉裏を囲んで酒と料理を楽しんだ 昔ながらの生活を体験することで 古き良き時代に郷愁を感じるというのか あるいはもっと人間の原始的な本能に近づきたい -燃える火を囲んで食事をする- ということを元来求めているのかもしれない

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ホフヌンクの駅へ切符を買いに行った 最果ての村 もう誰も暮らしてはいない奥地にある駅を目指すために 知らない土地がとてもたくさんあり 恐らく一生に一度も訪れることがないどころか 知ることすら無い場所があることは当然だけど そのことを自覚しながら…

1024

「愛しすぎたなんてことはないけれど そんな気持ちになることはもう二度とないと思うの」そう言って彼女は笑った 少しも面白くなかったけれど 僕も曖昧に微笑みかえした 彼女は彼のことをほとんど知らない 彼の生まれや育ち 学歴 交友関係 むかしの恋人たち…

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杏の木を伐った 鋸で手首くらいの太さがある枝を落としながら樅木を買いに行ったときのことを思い出していた 生協の店で注文してあったのを車で取りに行き 帰りに中華料理店で名前を知らない赤っぽい煮込み料理のようなものを買って帰った 酢豚ではなかった…

1022

初めて異様な視線に気づいたのは二十歳になるかそこらの頃だった 舐めるようではなく 突き刺すように ほとんど悪意を感じる強い視線だ 実際に彼がわたしを憎んでいたかは知らない たったいま会ったばかりの見ず知らずの他人同士で もし恨まれるようなことを…