305

高層ビルどころか コンビニすら10キロ四方に存在しない田舎町で その夜 彼女は自宅の部屋から飛び降りようとしたのだけれど 2階から落ちて死ぬには 心臓を貫くための尖った柵が必要だし 雨のベランダから見下ろしたそこは 濡れた芝生が広がり 街灯の光できらきら光っていた 彼女はその場に着地して 恐らく無傷であろうことを確信した 『坊ちゃん』のように腰を抜かしても困る 思案している内に寒くなったので 部屋に戻り 級友からドイツ土産に小さなチョコレートをもらったことを思い出して かさかさと包みを開けて食べた ビター・スウィート 彼女は歯磨きをせずに しかし化粧だけは落としてから毛布にくるまって眠りに落ちた 舌のうえに微かに残る甘み その顔には安堵の微笑みがあった
Remove all ads