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暦の上では春 とはいえ 記憶にある立春の日は ただでさえ白い病院の 更に雪で白くなった地面についた 無数のちいさな穴 穴 また 穴のこと


水滴が落ちたような でも雨なんか降らないし 氷柱もまだ溶けない寒さだし 不思議に思って 母に尋ねるとそれはゆうべ 窓から投げられた豆で出来た穴だと言われた 高いところから撒かれたのか 雪がまだ柔らかかったのか 深く沈んでいたようで なにも見えず ただ 無数の穴があるだけだった

程なくして病人は家に帰り それはつまり とても小さくなってしまって ということであるのだけど 結局 雪が溶けたあと ほんとうに豆があったのかを 確認することはできなかったのだった