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誰も彼もが 傷つき 勝者ですらくたびれていた時代に それでも生きようと がむしゃらだった 誰も彼もが 必死だった ことを わたしは知らない 聞かされてはいても ほとんど伝説か 神話のようになってしまったから

重なる屍は赤黒く塗られ そのなかで銃剣の刃だけが 鈍く光っている 敵か味方か 生者か死者か 或いは 気分を高揚させたのか 反戦を訴えかけていたのか 国を追われた画家の亡きいまや 判断は観る者にすべて委ねられているのか 神話はいつしか 終わりを迎えるのだろうか


黄金の20年代 幸福な日々 忍びよる戦争の足音 帰る場所を 祖国を失った放浪者は パリで死んだ 遺された妻は 精神病院で 殺された どうにもならなかった 愛する国を追われたから もう そこには いられなかったから

誰も彼もが 生きようとした ずっと傷つき続けて それでも いのちのある限り 誰かが それを奪うなんてこと してはいけないのに