515

「だれもいないから家においでよ」と誘いこむと 彼は椅子の無い部屋に敷かれた 毛足の短いラグのうえに座った まるで ビートルズの曲みたいだったけど 彼は既に航空券を手に入れていたし ワインは外へ飲みに行った
夜が更ける前に駅まで見送りに行き 帰宅して独りになった部屋で すっかり冷えたシーツに脚を滑り込ませると 煙草に火をつけて深く煙を吸い込んだ 右手は震えていて ひどく悲しかった さよならのくちづけも 初めてのくちづけも 変わらずに愛しかったことだけが 救いだった