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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

626

男は展望台から街を見下ろしながら「あそこに見えるのが僕の好きな墓地だ」と 白っぽく広がる丘陵地帯を指差した わたしは目を凝らしてみたけれど あまりよく見えなかった 既に黄昏時だったのだ

かつてはわたしも墓地が好きだった いや 忘れていただけで今も好きなのだ 整然と区画整理された緑溢れる霊園は 近道にならない通学路の一部であったし 大理石や白い十字架の前に供えられた折々の花は美しかった そこにはわたしの先祖の誰の骨も埋められてはいなかったけれど
あるとき 万聖節の墓参りに行くと あちらこちらに小さなランタンが置かれていた 北国の冬は夜が長いので どんなに小さな灯りでも嬉しかったものだった


わたしは男と墓地へ行かなかった そこに彼の先祖の眠る墓もまた無かった 黄昏の霊園は闇にのまれて眠る 死者は目覚めない
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