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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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痛みには慣れても 傷つくときの感覚だけは忘れないでいたい わたしにとって鈍感になることは自我を失うことだ

あの人がいない ということに慣れないといけない 本当は既に慣れている 死んだと思っていたくらいだから 流れるままにも生きていたということは それなりに佳い報せではあった あの人はじきに旅に出る また会おうという言葉だけを信じて 吐きそうになる苦しさを堪えながら暮らしてゆく そのときの感覚は想像し難い稀有な痛みで 腕利きの漁夫が磨いた銛のように鋭く突き刺さり 鋼鉄製の錨のように深く沈み込む わたしはその感覚を忘れないでいたい
気怠い温室に広がる花の芳香や 滑らかに溶けてゆく体温のことも
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