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ヴォトカ流れる河のほとりで

Das Tagebuch der Lily Mercury

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「性交をしていると段々自分の身体がサカナになってゆくような気がする 光が届かない深い奥底は 暗く冷たく でもそれがとても気持ち良くて もっともっと泳いでいたくなる 息継ぎは接吻 わたしはサカナになるから 息継ぎをしなくても呼吸が出来るはずなのだけど まだ今は駄目 鱗もはえていないし ひとり満足に泳ぐことも出来ない そうあなた無しでは」

 

聞こえますか わたしの潮が満ちて そのなかであなたが熱くなった櫂を漕いでいる音が 聞こえますか まだ人間の形を憶えているわたしの口から吐き出される言葉が 聞こえますか ふたりのまわりに押し寄せてくる漣の音が 聞こえますか

聞こえますか

 

 

 

生殖を目的としない性交の罪深さを母親は淡々と話し わたしは何度か鞭で打たれたあと鍵のついた納屋のなかへ押し込められた 眼を閉じればサカナになったあのひとが砂浜に放った精液の白さだけが正しく残され あとはすべて波にのまれ打ち流されてゆく 腐敗した肉体はやがて骨になり いつかは砕かれて砂になるだろう その日はしかし あまりにも遠く 愛は永遠の彼方で息も出来ない

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