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時折自分の声が他人のそれに聞こえる 正しく発声出来ているのか確認すると 彼は「問題ない」と答えた でも違和感があるの と続けようとしたが その台詞すら予め用意されたもののように感じられたので わたしは話すことをやめた

 

自然光が差し込む部屋が舞台だ 観客はいない 誰に拍手されることはなく 幕が降りることもなく 淡々と台詞を読み上げる それは大したことではない ある瞬間にわたしは わたし自身が演じている姿を目撃する しかしそれは本当にわたしだったのだろうか?  一組の男女が手を繋ぎ並んで立っている「あなたと一緒にいられるだけで幸せなのよ」 彼女は表情を変えずに真顔でつぶやき 男もやはり無表情で立ち尽くしている 「ねぇ 今のわたしが言った?」彼女は口元だけを動かして喋った「そうだよ」と男は殆ど口も開けずに答えた

 

ブラインドの隙間から差し込む光が長い影を落とす頃 女は用意された台詞を言い尽くした

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