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時計を身につけなくなったのはいつからだったのだろう ハイスクールへ通いだしたときには 薄い水色をした文字盤のを持っていたし お仕事のときは濃い紺色の文字盤で12と6のところにダイヤモンドがついた銀色のをつけていたのに 多分電池が切れてそのままにしてあるんだった

 

小さなころほど腕時計に憧れていた 大人の象徴のように見えたし 時間を管理することはとても崇高な行為に思えたから でもほんとうは腕に時間を縛りつけられているだけで 戻すことも進めることも事実不可能だった 遅れているのは電池が切れかけているからだ 秒針が長針と短針の間で痙攣をおこすように前後に振れている でも時間が止まるわけじゃない そんなの誰でも知ってるけど

 

きっと買ってもつけないと思う

 

赤い革ベルトに小さな丸いゴールドフレームの文字盤がついたのが一番可愛くて たぶん似合っていた でもきっとつけないと思う そういう女だから