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はじめに倒木や枯草の間から明るい緑がのぞく それは嬰児のいろ 芽吹いたばかりの名を知らぬ草

柔らかな草は春の息吹と共に勢いよくひろがり

荒れた山野を静かに覆ってゆく

凍てた骨と屍の谷には再び水が流れ出し

葉をすっかり落としていた梅の木は雲雀の歌で目覚め白い花を咲かせた

 

歓びの予感

幼子は白い運動靴を履き 少しぬかるんだ道をためらうこともなく歩んでゆく

なにも恐れることはない まだ始まったばかりなのだ

老女は古い乳母車を押し 耕やされていない広大な田園のまえに立っている

なにも悲しむことはない 眼に映る景色すべて彼女のもの

 

やがて菜花や桜が咲き 山はまた青くなるだろう