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手を滑らせるといけないので いつもの赤茶色をしたゴム手袋ではなく 軍手をはめなければならない 鱗にぬめりがあるのだ まな板の上に置き頭を押さえ 腹びれのあたりからすっとえらまで刃をひくのは 簡単そうに見えるが じつは結構力がいる 開いたら中から赤黒いはらわたを素早く引き抜き 桶に入れて また次の腹を割く その間に流し台に立つ者が流水で腹のなかを洗い それをまた別の者が 今度は頭を落として 身をぶつぶつと切ってゆく 小さいとはいえ 骨があるから上手くやらないと滑って危ない 女たちは薄暗い作業場で一日中黙々と働いた 汗と水で濡れた服はじっとりと 淡水魚特有の生臭い匂いが染みつき 額を拭ったときだろうか 頬には透明な鱗が 涙のあとのようについていた

 

躊躇ってはいけない 力をいれて 手早くやらないと どんどん血や内臓がこぼれだして どうにもならなくなるし 長く触れているといたむ原因になる 躊躇ってはいけないのだ 決めたからにはなんだって