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初めて子宮の超音波検査をしたのは何歳の頃だったろう 妊娠したかもしれないことが不安で仕方なかった 絶望に打ちひしがれながら訪れた産婦人科で 痩せた中年の男性医師は淡々と診察をしながから 「異常ありませんよ 妊娠もしていません 綺麗な子宮です」と言った その隣で母親は娘が傷物になったことを知り 怒りに震え やり場を失った感情はわたしに打つけられた 死にたかったのはこっちなのに 相手を殺したいだなんて それならわたしを殺してほしかった

定期検診のたびに もう何年まえなのかわからないその夜のことを思い出し惨めな気持ちになる 妊娠する予定もない 希望もないのに毎月毎月別人に支配されているような感情に振り回され  薬を飲んで痛みを堪え 数日間にわたり血を流す(しかも最初の一滴が流れ出す瞬間を予知することはほとんど不可能であり 常に備えておかなければならない)ことがどれほどの苦痛か 孕めない男たちに理解されることはないだろう
診察のときは 上半身は着衣のまま下着を脱いで産婦人科専用の椅子に脚を開けて座るのでひっくり返された蛙のように無防備な状態になる 医師と患者の間にはカーテンがひかれており 直接顔を合わせることがないので もう何年も毎年一度は検診に来ているけれど先生がどんな顔をしているのか知らない カーテンに囲まれてたわたしと椅子とモニター画面だけの空間に 女医が自己紹介をする明るい声が出て聞こえる 「念のためご確認しますねーお名前と生年月日お願いしますー」 いま先生の前にはわたしの性器と脚しか見えていない つまり わたしの名前と生年月日だけがそこに関わっていて 顔や仕事ぶり ましてや生活なんてものは一切関係がないというのは なんとなく変な気持ちだった 患者のプライバシーを守るためにはそれが正当な方法だとは思うし それ以外にどうしてほしいということもないのだけど
女医はベルトコンベアを流れてきた部品を素早く点検して 組み合わせるように検診をすませ「綺麗な子宮ですね」と言った 結構なことだ こどものいない子宮 空っぽの内臓 剥がれ落ち流れていった経血 「あなたが心に神殿を築けば神はそこにおられる」というようなことを神父さまは話していたけれど 想像妊娠のこどもは永遠に産まれない 結構なことだ!