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あなたの名前を忘れてしまいたい 最後に会った日も 初めて出会った日も 嵐の最中だった 夏の激しい暴風と そのあとに照りつく陽射しの暑さを わたしはいまだに思い出す あなたの顔を忘れてしまいたい もう ずいぶん前のこと あなたはまるでダビデ像のように逞しく 美しかった 小麦色の肌で包まれたしなやかな腕の筋肉で あなたがわたしを心から抱いてくれたことなど 結局ただの一度もなかったのだけれど 忘れることが出来ない あなたの肉片がわたしのなかへと沈み込んだとき 悦びのうちに殺してしまいそうだった それから わたしも死んで ふたりで溶けてしまいたかった 今ではもう手を繋ぐことだって叶わない きっとあなたはもう 憶えていないのでしょう そうしてすべて流れ去ってゆくの 濁った水でも流れるかぎり澱みはしないことをあなたは知っている

あなたのことをもう愛せなくなって それでもまだ忘れることが出来ない その苦しさをあなたが知ることはないのでしょうね

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