1010
むかし 友達とふたりで白い壁沿いの道を歩いていたとき ふいに門扉が現れ (ふいに というのは本当はおかしい その壁も入口も少なくとも100年以上前からあるのだから) なかには銀杏並木と一面金色に光り輝く落ち葉で埋め尽くされた砂利道がひろがっていた 底冷えの街を照らす午後の陽射しのしたで なにもかもが震えるように煌めいていた
わたしたちは息をのんで 呆然と立ち尽くしたまま そこへ足を踏み入れることは出来なかった もう二度とこちら側の世界へ戻れなくなるような気がしたからだ そんな馬鹿なことがあるはずはないのに それほどに美しかったのだ
1009
「僕は親が不仲だったんだ」夏に出会った男はそう言った
わたしは河へ向かって石を投げた 丸くて平べったい石は水の上を2回跳ねてから沈んだ
「だから早く家を出て新しい家庭をつくりたかった」
夕焼けが家屋の間を沈んでゆく 少し風も出てきたようだ
あたりにはもう投げやすい石は落ちていなかった
「じゃあなんで家に帰らないの」
「疲れてるんだ」
わたしはもう心底うんざりしていた 正直なところ彼が本音を話そうと話すまいとどうでも良かったし 肌寒くなってきた今では河べりから離れたかった
「はやく帰って寝た方がいいよ」
男が背後から覆いかぶさるように抱き着いてきたので そのままするりと腕を抜けてのり面へと駆け上がった 男は呆気にとられたような表情でこちらを見ている
「わたしもう帰る 明日1限から授業あるし宿題しなきゃ」
「駅まで送るよ」
こんなつまらないゲームを何度繰り返すんだろう どの選択肢を選んでもバッドエンドになるなんて