1193

大抵のことなら わたしの若さと美貌に嫉妬していると思うことで どうでも良くなる その程度のことだから

 

わたしの事情を彼女は知らないし 彼女の事情をわたしは知らない 教えたくないし知りたくもないけど 痛みに関しては殊更 伝えきれるものでもないから 話してどうにもならないことを無理に言葉にすることはない どうしてわたしがいなければ 自分がここにいると思うの? 消去法で残ったのではなく 選ばれたということを思い出してほしい 彼にはあなたが必要で わたしは別のひとに求められたというたったそれだけのこと


若さと美貌を保つための必死の努力を教えない そんな退屈な話 聞きたくもないだろうけど

1192

ブログの更新が千日を越えてから ときどき語呂合わせで覚えた年号のことを思い出す 3桁の頃よりは圧倒的に多い 歴史は好きだけど年号がまるで覚えられなかったから苦手だった

鎌倉幕府はほんとうは1185年に出来たとか いや征夷大将軍になったのは1192年だからそれでいいとか わたしは壇ノ浦も鎌倉も行ったことがない 映画で見た釈迦堂の切通しは一度歩いてみたかったのだけど もう閉鎖されてしまった 越前の呼鳥門も もう随分まえに通れなくなったのだ 切り拓かれた道の傍に忘れられた遺物を しばしば愛しく思う

1191

スマートフォンを忘れたまま出掛けてしまったけれど 大して不便なことはなかった 時計を持っていないので時間がわからないくらいだけど 誰と待ち合わせしていることも なにも慌てることもないので困ることもない

バスの中で手持ち無沙汰になり ポケットを探ってから忘れてきたことを思い出して そのまま手を入れたままぼんやりと外を眺めた 河が北から南へと流れてゆく 草木が両岸に覆い茂り風で揺れるたびに 歯がきらきらと白っぽく光っている 後部座席で眠っている少女の髪についた萌葱色の蕾 太陽はまだ高い

1189

山の話を聞くたび思い出すひとがいて わたしもいずれ 一度は登らないとなぁと思う 気候の良い時期に まずは低い山のピクニックコースから 必要最低限の荷物を背負って 歩いて 頂上を目指す 山頂では仲間たちと記念撮影もするだろう 正直そんなの苦手なのだけど

 

もう随分まえの初夏にオーストリアで どこかの山を歩いたことがある あの頃は目的もなく歩くのが嫌で 早く帰りたかったし 今もペンションの庭で食べた大きな焼きソーセージのことしか思い出せないくらいだ 夜は誰と眠ったのだろう?

1188

援助を求めなくとも助けてくれるひとがいることには感謝すべきだし その思いこそ口頭で伝えることが大切 それから困ったときに助けてくださいと祈って 効き目がなかったから神様はいないと嘆くのはやめること

わたしの神様はわたし自身が健やかに生きることを望んでいるので 花を飾り 水を替え 蝋燭に火を灯し 目を閉じて祈る

1187

これまで生きてきて 助けを求めなければどうにもならないようなことが起きなかったのは幸いだけれど 或いは必要な時に適切な援助を求められていなかったのかもしれない たとえば些細なこと 部屋に大きな蛾が入ってきたのが気持ち悪くても 誰も来てくれないから自分で追い出さなければならないとか なにをやっても いつまで経っても要領がつかめず怒られてばかりで 死ぬこと以外考えられなくなるとか 助けてと誰に言えば届くのか 肝心な時どうやって人に頼めばいいのかあまりわからないのだ


言わないと解らないとひとはいう

言っても解らないともいう

1186

デジタルカメラが世の中に普及して以降 驚くべき速さで画像は鮮明になり 現実よりも明確に つまり眼で見るよりもはっきりと写し出されるようになった けれど 下手な写真は下手 わたしはきっとフラッシュを炊き忘れた薄暗い室内や 指が写り込んで顔が隠れた写真を見て溜息をつく 昔のように! それでも仕上がりを見るのは楽しみなことである