1316

言葉に出来ないことを伝えられない 言わなければわからないと言われるけれど 言ってもわからないだろう そのように決めつけるのも良くないと思ってはいても なかなか出来ないことで
わかろうとしたけど無理だったと言われるくらいなら 何も言わらないほうがマシだ 10年ちかくかかって 修復出来たと思っていた関係が崩れて わたしはやっぱり長く生きすぎた
まだ若いのに と言われる 恐らくわたしだって同じ年の人が死ねば同じように感じるだろう しかしそれはごく一般的な事柄であって わたし自身の話ではない それは 彼らがわたしを理解出来ないこと わたしが彼らを理解出来ないことと似ている

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本当は会えないことをわかっているのに せめてと約束だけを取り付けたままでいて 不誠実であることに躊躇いもしないのは あの人がわたしに素っ気ないからではなく わたしの我儘 会えなくなったと伝えたら 彼は厄介なことが無くなったときっと胸を撫で下ろすだろう そして彼はそのことをおくびにも出さない そういう人だから

もう少しだけ夢が見たい この夢は醒めることを知っているから 好きなとき目醒めさせてほしい

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本の取り寄せを頼みに行ったら 問屋に在庫がないので版元に確認してからと言われ 既に出版社には確認してあると言ったものの それは火曜日のことだったので少し心配でもある まさかこの4日の内に品切れになってしまったらどうしたものか 冊子には「バックナンバーの購入は弊社までお問い合わせください」 なんてことが書いてあるし きっとまだ大丈夫だろうと信じている どうにか手に入りますように

 
子供のころ まだインターネットも携帯電話もなかった時代 わたしも周りの友達も 駅前にあるちいさな書店と品揃えの悪いレンタルショップが文化の全てだった 映画館や図書館も無く 遊戯場すら無かったから 不良たちは刺繍を施した衣装を纏って 夜毎バイクを走らせるほかなかったし そうでない子たちは家でテレビを見ていた 中学生のころ××と出会って…という人が心底羨ましいと今でも思う あのころのわたしはまだ 何を取り寄せるべきかも知らなかったのだ

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噂話の煙がたって火元がわからない 猜疑心が強いひとの ある種 妄信的な意見によると 火をつけたのは自作自演らしいけど それって本当かな
どっちが正しいとか 悪いとか じゃなくて 良くなる方が良いんだけど それだって視点の違いで違うことになるから 世界の平和なんてものはありえないんだよ 僕らは僕たちのための新しい世界をつくろうと あの人は言った それを信じるかどうかは別にして

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いつだったかどこまでも広がるイルゲンドヴォの穀倉地帯を見に行きたいと言ったとき それって私たちが暮らすここにあるよねと屋根裏部屋から窓を開けて それなりに広がっている田園風景を見せてくれた彼女とは今も友達だけど 地平線まで続く穀倉地帯は見たことがない 南の国から来た旅好きの芸術家は 私たちが暮らす街のことを まるでイルゲンドヴォの美しい農村のようだと褒め讃えてくれて 悪い気はもちろんしなかったけれど それでもやっぱり違うものなのだ

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くたびれた服を売りに行ったら 二足三文にしかならなかったけど ごみに出すよりはましだ なんとなく気が引けて 衣料品回収ボックスに入れるのが一番だと思うけど なかなか見つからない
お金がないとき しばしば赤十字が経営する古着屋で服を買っていた アンティークだとか お洒落なものなんて無かった 誰かが要らなくなったものが 安値で売られていて そこで買ったむちゃくちゃダサいセーターは どうして捨てられたのかわからないくらい暖かかった ほとんど着られた形跡はなく しかも誰かの手編みだった 売れ残りの毛糸で練習がてら編んだのかもしれない あんなにダサくて暖かいセーターは後にも先にも見たことがない

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サヴァイヴしてる 人並み以上にタフにならなけりゃあ やってかれないのよ あちらもこちらもゾンビが歩き回って 昔は良かっただなんて知らないっつーのー デッド・オア・アライヴ いつだってあんたは寂しがり屋で 独りで眠るってことが出来ない 出来ないんだから バニラのアイスにバーボンをかけてよ ハニー 菜食主義者手巻き煙草に火をつけて 窓を開けたなら突き抜けるような青空! サヴァイヴしてる 人並みくらいにはなんとか やってこれたはずなんだから アダムやイヴが楽園を歩き尽くして 林檎は美味かっただなんて言ったとでも思う? セックス・ドラッグ・ロケンロー いつだってあたしは悲しくって 独りで歌うしか出来ない 出来ないんだから 天使の羽を背中に描いてよ ダーリン 愛国主義者が憂鬱な眼差しで水平線を眺めたなら燃えるような夕焼け! サヴァイヴして ねぇ 人並みじゃあ満足しないしもうどうでもいい どうでもいいから
生きて

1308

あの人のことが好きなのに たぶん1週間も一緒に暮らせばうんざりするのがわかっていて どうでもいいひとたちは そんなことないよ試してみなきゃと言うけれど 自分のことくらいわかってるし あの人はそんなにいい人じゃない 幻想を追いかけているくらいが丁度いい距離

1307

歳をとるのは嫌だった というか 何者にもなれないまま大人になるのが怖かった おおきなことひとつも成し遂げられないまま ぼんやりと生きてきて わかったことは 仕事のあとにつまむ烏賊の塩辛や鰊の酢味噌和えが日本酒にとてもよくあい なんとも美味いということだった