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チェックのブランケットが欲しくなって探していたら まだティーンだった頃はチェックのミニスカートばかり履いていたのを思い出した それから黒いブーツ 残念なのはツィギーのように細くて長い手脚でなかったこと わたしの英語は Sex Pistols からだから すぐにFワードが出てしまう 慎むようにはなったけど 古着屋で とても安く買ったグレースチュワートのような色合いのミニスカートが特に気に入っていた 煙草2箱分くらいの値段だったけれど 本当に可愛かったし ナンシーになったみたいだった 20歳までに死ぬと信じていたし 決めてもいたはずなのに 結局シドのような恋人は出来なかったし 27クラブにも入り損ねてしまった それどころか 家で音楽を聴きながら快適に過ごすための 暖かなブランケットさえ欲しくなっている どうなるかわからないものだ

 
Kiss This

Kiss This

 

 

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知らない町へ来ている 単線の無人駅から一両編成の汽車に乗り込むと 既に何人かの乗客がいた そのなかに旧い友人がいたので偶然の再会に喜び記念写真を撮ろうとしたのだけど シャッターがどうしても動かなくて 彼はわたしを後ろから抱きかかえたまま眠ってしまった ほんとうは起きていたかもしれない 知らない町から少し離れたところにあるちいさな広場がある中心部のちいさな町にあるちいさな劇場へ行くと 信じられないほどおおきなスクリーンの舞台があったので ふたりでサクランボを食べながら白黒映画を観た 彼はもうすぐぼくの友達が来るから そうしたらちゃんと挨拶をしてねと言った しばらくしてから現れた彼の友人 ー白い麻のスーツを着てやはり白いパナマ帽をかぶり 金縁のめがねをかけたいやらしい顔の若い男ー に教えられたとおり挨拶をした 男は品のない笑い方で 頭からつま先まで舐めるように見て いいのを手に入れたねと言った

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約束が 果たされないのに慣れてしまい 涙も出ない不感症 悪いのはあなたじゃなくて 温かすぎる布団

頭を冷やすために歩き始めたら 殊の外気持ちのよい天気だったので 気づけば歩数計が10キロを計測していた ここのとこ運動不足だったのでちょうどよかった 昼食にとったチキンバーガーのカロリーくらいは消費出来ただろう
途中 素敵なランジェリーを見つけて買いそうになったけれど辞めた でもやっぱり買うかも ショーツのサイドにゴムがついていて そこにリボンが結ばれているのは 一見合理的なのだけど 水着でもないのに紐は邪魔でしかない 可愛いけど

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アナ・ウィンターになれなくたって生きていけるし むしろその方が生きやすそう だけどちょっと憧れる まずは全身真っ黒な格好から卒業した方がいいのかも
久々にネイルエナメルを塗りながら 「女に生まれたなら女を楽しまなきゃ」なんてフレーズを思い出して 別に男がスカート履いたり口紅塗ったりしたっていいじゃんって反抗心がわいた 何にでも反発したい年頃でもないけど

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懐かしい声がして 振り向くとほんとうに懐かしいひとの訪問だった 見違えるほど大きく成長して もうひとりの大人の男だった 彼が健やかに生きていること そして長らく会わなくても覚えていてくれること どちらも嬉しい

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腕時計を買おうと思って電気屋へ行ったけれどやっぱり買わなかった どれもつける気にならなかったし 恋人に時間を尋ねられたとき見せてもすてきとは思えなかった (そして恐らく彼は間違ってもわたしに時間を尋ねたりしない)どうしても時計が必要な時も なくはないけれど ないならないで何とかなっている 旅行のときは目覚まし時計を持って行った それなりに便利だったけど 部屋に馴染みすぎて置いてきたことに気づいたのは帰国してからのことだった

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香りが無い花のパルファムに興味がある おそらく花のもつイメージから合成した香りをつくっているのだろう 気になったので百貨店へ試しに行ったけれどそのパルファムは取り扱っていなかった 代わりに勿忘草のものを試したら石鹸に似た香りがして 勿忘草にもそんな香りなんてなかったと思った

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わたしの愛はいつでも生焼け 煮え切らないまま腐るだけ 血と肉と骨以外何もない あるような気がしているだけ 何も掴めないのは何もないせい ぜんぶ白い雪に埋もれてしまえ じっくり腐ってゆけばいい

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たくさんの海豚が泳いでいる 濁った水のなかでわたしは海豚と泳ぐ ずっと立ち泳ぎをしていたのに 監視員がきて 足つきますよ 伸ばしてみてくださいと言ったら金属製の床があることに気がついた さっきから立って泳いでいたのにどうしてわからなかったのかしら 水は濁っているけれど とても気持ちいい