Entries from 2019-01-01 to 1 year

1470

誰にも会わなかった昼下がり 映画を2本見て 陽が沈む前に食料品を買いに行き また春が来るのはすこし悲しいと思った 佳きことではあるのだけど

1469

ともだちと昼ごはんを食べて 花屋でミモザをひと枝買い ふたりでメトロに乗って帰った 古い映画の話をしたあと わたしのほうが先に降りた男女の友情について アリかナシか 昔からずっと議論されているけれど 結局のところ時と場合によると思う 彼とは寝る予…

1468

キレそうな5日間が終わって むちゃくちゃに頭が痛んでいる ふかふかのベッドに横たわり 目覚ましをかけずに眠りたい 加湿器の電源を入れてアイマスクをしたら 快適なノイズと暗闇がひろがる 軽やかな羽毛布団を包む柔らかなガーゼは少し毛羽立って 肌に馴染…

1467

一番信じたいもの 一番諦められないものを考えるより先に 信じるものを失って 諦める方法ばかり思案するようになった 若くて綺麗で健康なのに何を思い悩むのかと慰められたとき そのような刹那的で不確かなものしかわたしにはないことに絶望しているとは言え…

1466

コートのポケットからリップクリームを取り出し 唇に塗ろうとしたら 知らない女の香りがしたので もう一度ポケットに手を入れて差し込むと 小人のマダムが飛び出す代わりに 昨日 香水店でもらったムエットが出てきた 知らない女はなりたい女であるのかどうか…

1465

滑らかな曲線を描いた食器が好き 金属も陶器も樹脂も木材も 唇にふれたとき すっと馴染むのがいい 湯呑みなら尚更のこと 見た目にも美しくて実用的というのは大切なことだ誰もいないインテリアショールームを彼女とふたりで歩く ふかふかの絨毯と悪趣味な置…

1464

白い月 少しずつ大きくなる 薄ピンクをのせて色づいて はやく満ちれば良いのにね すっかり悪くなった眼を細めると いまでもちゃんと月のクレーターが見える むかし ともだちのうちから 村の中を歩いて帰っていたときふたつ見えたことがあって 途中すれ違った…

1463

新鮮でみずみずしいものも 時を経て熟成したものも どちらにも魅力があって ただ青くて固いだけの蕾で枯れたくはないし 薹が立ってどうにもならないということも避けたい 甘い匂いを発しながら発酵していくのもいいかも ブルーチーズのことも好きだけど

1462

すべてが懐かしいという大雑把なくくり方はしたくないものの 壁の色も お皿の模様も 林檎がぼろぼろとなる大きな木も 手漕ぎの舟も 夏の日差しも 日焼けした水着のあとも 懐かしかった 朝露で濡れた芝生のうえを裸足で歩くと 草の温度を足の裏に感じた その…

1461

まだ田畑に雪が残っている時期のよく晴れた日 ニルゲンドヴォで子供が産まれた 男と女の双子で 女の子は鳶色の瞳に茶色い巻き毛 男の子は濃い緑の瞳に紅い巻き毛で どちらもまるまるとした身体つき 腰が曲がった産婆は皺だらけの手で 真っ赤な顔になり泣きわ…

1460

10年前にたった一晩 愛した男を忘れるのに5年かかった あんなに好きだったのに どうしてどうでも良くなるんだろう 『沈黙』で 最期までこっそり十字架を持っていた男の名を思い出せない 何度も 何度も転んでも 裏切っても さいごの最期に殉死したあの男のこ…

1459

わたしにとってイケてる音楽を聴くことは 気持ちよくなりたいからで 特定のひとを対象にしてはいないけれど ライブに行くのはその感覚をよりリアルに感じたいからで OAからMCも含めて当然全てがライブだと思ってる この日記は嘘ばかりだから改めて書く必要も…

1458

正解がわからなくて たぶんみんな正しいし 全部が間違いでもある 妥協だけはしたくない それを判断できるのは自分自身だけだからかつては 彼だけが正しいと信じているひとがいたけれど そんなことは無かった 手に触れている幸せに気づくなことなく 遥か遠く…

1457

心地よい湿り気 濡れた肌に咲く花 水面に浮いた桃色の花弁 懐かしい音楽 雑音 その名を知らない楽器 目を閉じて言葉を理解しようと試みる そんなことしても何にもならないとわかっているのに 繰り返してみる 聞こえた歌声の 音を 意味は知らないでいても

1456

バターになっちゃいそう ぐるぐるまわれ フライパンのうえで溶かせ もっと熱く あぶくが立つまで バターになっちゃったら もうなにも考えなくていいね おやすみ また明日 くるならね またね

1455

きっと彼は来ない 砂埃と銃弾が舞う砂漠で虚しく倒れてしまったから 滲み出した重油が燃える海面で息絶えてしまったから 熱帯雨林の河川で鰐に襲われてしまったから 撃墜した戦闘機が砲弾ごと落ちてくる 鉄屑が雨霰と降ってくる 人が燃える 家が燃える 街が…

1454

まだ風がとても冷たいけれど 食料品コーナーには春の便り 小さいけれど丸々とした蛍烏賊と固い蕾の菜の花をひと束 籠に入れながらあの人のことを思い出して 春が来るまでに会おうねって話してたのに もうほとんど春じゃん なんて20年前の今日は 朝から雪が降…

1453

この人と一緒ならなんだって平気 どんなにつらい日々が続いても耐えられる そう思っていた恋が終わってから もう何年も経って ようやく理解したのは 苦痛を耐えられることより 幸せにしてくれるひとを探したほうが健全であること どのみち苦痛はひとりで耐え…

1452

きりりと音が鳴るような冷えた青空と 水面の動きがわからないほど大きな広い河 そして果てしなく続く枯れた平野 電車に乗り街にある食糧品店へ赴き 購入した芋と玉葱を紙袋に抱き抱え わたしは当時一番好きだったひとの元へ帰った 今でもよく覚えている 幸せ…

1451

なにもしなくたって時は流れていくと 知らないことはないのだけど 夢のなかで彼女は ずっと昔のまま ふっくらしたすべすべの頬で笑っていた 今では極東の地で恋人と暮らしているとかいないとか 風の噂にきいているだけ彼女の好きなアニメキャラクターの商品…

1450

暖かくなると聞いていたけれど とても寒かったと話すと こうして一雨ごとに春が近づくのよと女は微笑んだ 彼と最期に会ったのもこんな時期だった 霙まじりの日で 葬式は雪のなか執り行われた

1449

曇天 白い雪が残る枯れた草木の平野が広がった線路沿い 黒い鳥が空を渡ってゆく 駅について降りたのは わたしと 年老いた男ひとりだけだった 狭いホームのうえに撒かれた塩化カルシウムの粒のうえを歩くと ざりざりと音がした 暖かい日だと聞いていたけれど …

1448

ショコラ 舌の上に乗せて 噛んで リキュールが溢れ出すボンボン 甘くて苦いタブレット カカオ豆の香りがすぅ と 鼻の中に広がる プラリネ ガナッシュ ジャンドゥーヤ 青い眼のショコラティエが立つ前のショーケースに並べられたひと粒ひと粒を ぜんぶ残らず…

1447

ニルゲンドヴォに雪が積もって ホフヌンクにも雪が降った ストッキングも タイツも履かない脚がハイヒールで 雪のうえに 印をつけてゆく 綿あめみたいに白くてふわふわの雪が凍って固くなる ふわふわ がちがち 橙色の街頭で照らされた雪道はオレンジ色に光っ…

1446

起きたときから頭がずきずきと痛んでいる 風邪ではないけど こういう痛みが年に数回あって 恐らく疲れているのだろう 気圧のせいかと思っていたけれど 天気が良い日でも起こるので仕方ない痛いのも苦しいのも大嫌いだ 自らを傷つけることは別に快感を得るた…

1445

意味もなく わけもなく 流れてゆくだけの時間 お湯でぬるくなったアルコールの匂いは嫌いだ きりりと冷えた エタノールの匂いが良い グラスが気化熱で白く曇るほど冷たいのに喉が焼けるような そういう激しさが愛しい 塩を舐めてからショットを流し込み 檸檬…

1444

朝 出かけるのにこっそりと寝床を離れたら 一緒に寝ていた妹が「何処へいくの いかないで」と呼び止めてきたけれど 結局彼女は布団から抜け出せなかった まだ暗くて寒かったから わたしが必ず帰ってくることを知っているから もぞもぞして少し泣くような声を…

1443

溶けてしまいそう 日々の生活に 疲労した身が溶けたなら 何色に濁るのかしら それとも泡立ってしまう?

1442

今朝見た夢に出てきた男の子は 子供の頃のY君だと思っていたけど 僕が大人になったら結婚しようと言ってくれているK君にも似ていたし 生きていたときより死んでからの年が長くなってしまったR君にも似ていた ぐりぐり坊主頭の一重まぶたで ほっぺが赤くて…

1441

夜が迫ってくる 白い雪で塗りつぶされた街を黒く染めかえる 曇天の日 空は燃えることもなく静かに灰色になり 家々の窓から漏れる灯りだけが ぼんやりと 遠くに見えている よく光る星のように はるか彼方で