888

骨のように白い髪飾りを買った 鼈甲色と迷ったので 隣にいた男にどちらが好ましいか尋ねると 彼は迷わずに白を指差して 女の子には白いものを身につけて欲しいんだと照れ臭そうに答えた

 

わたしは彼らが求めるように振る舞うことが好きなので 白い髪飾りを選んだ それは牙の白 骨の白 クチナシの花に似た白をしている

887

誰も彼もが悪いひとばかりなので この茶番 すこしも面白くない

彼女が彼女のことを それほど好きじゃないひとしか愛せないのは どうしようもなく不幸なことではあるにせよ 誰からも愛されないよりも 幸福なことなのだろうか 神様はあなたが思うよりずっと 愛してくださるというけれど

886

退屈しのぎだったはずの恋煩い あるいはもう 死に至る病 その白いブラウスはまだ汚れてはいないのではなく 漂白されただけ つまり汚れたら洗えばいいし 破れたら繕えばいい そんなに難しいことじゃない 元に戻すことなんて なにも出来やしないんだから

885

簡単に揺らいでしまうのではなく 強く愛しすぎてしまっただけで 彼女はわたしを魔性の女だというけれど なんてことはない 他人より執念深いだけだ
抗うことを諦めて深淵に飲み込まれてゆくのか 痛みを忘れた肉体から 流れ出た血液にヘモグロビンが足りないことをどうにも出来ない 込み上げてくる吐き気 誰のことも期待してはいけない 求めてもいけない 揺らいでしまうことを止めろ さもなくば血は涙で洗い流せ! 

思考を停止したときからファクシミリを送り続ける 白紙のまんなかに一本の線 それを途絶えることのない愛だとは呼ばない

884

早朝 エンジンの音で目が覚めたので カーテンを開けるとインターホンが鳴った 新聞配達人なら無言で立ち去るのだけれどと 窓を開けて階下を覗くと 青いコンバーチブルに乗った夏が来ていたので 手を振ってすぐに行くから と 慌てて階段を駆け下りて扉を開けた 夏は真っ白な砂のうえに置いた 櫛形に切ったオレンジのような唇で笑いながら立っていた ねぇ久しぶり やっと来たよ 早朝 わたしたちは小声で話す どうしてたの どうって スードの方へ行ってたのよ あちらが今度は寒くなるの 夏は左の手首につけた時計を一瞥すると もう行かなくちゃと言った ゆっくりしてけばいいのに と応えた そのように会話をするようになっているから 夏は 当分ここらにいるからまたね とウィンクをしてコンバーチブルに乗り込み そのまま海岸のほうへと走り去って行った 見送ってから玄関に戻ると 蝉が脱皮をしていた まだ緑色に透き通っていた

883

かすかな濁り ひかりは揺らぎながら砂のうえを流れる ゆっくりと呼吸にあわせるように

腕を前後にかきながら 脚を折り畳んだり 伸ばしたりして水のなかで前へ進む運動を 幼いころから教えられていて いまでは滅多にやらなくなっても ひとたび脚を砂地から放せば 繰り返すことができる 鳥が空を羽ばたくように わたしは水のなかを泳ぐ しなやかな動物になって