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記憶媒体を購入する際に悩むのは 物自体の値段や性能よりデータを遺すべきか否かということ わたしの生きた証などなにも遺らなくたって構わない けれど生きていくうえで必要な事柄まで消えてしまうのは困る 本当はそれらをすべて分別すべきではあるものの なかなか手間がかかることだし ある意味ではすべて無くたっていいくらいだから やっぱり躊躇ってしまう

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とてもよく晴れた穏やかな日だった 駅前には観光客が溢れかえり ひどく疲れてしまった 彼らはみなとてもゆっくり歩き 急に立ち止まっては写真を撮り出すし 大きな声で騒ぐのでまったく穏やかではない もはやありふれた光景ではある 喧騒を抜けて裏の路地へ入ると隠れ家カフェには長蛇の列が出来て少しも隠れてはいない そもそもこの町に湿気った路地裏なんてものは数年前からなかった 成人映画館が無くなり 煙草店の女主人は高齢のために店を畳んで田舎へ帰り もうあの頃とは違うのだ アーケードの破れた天井から見えた空だってもうないのだから

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部屋を片付けて 読み終わった雑誌は古紙回収へ出して 二度と会わないひとの恋文は焼いて 着なくなった服は古着屋で売って 手帳に書き留めた連絡先を整理して 求めてはいけない愛のことを忘れて それから それから 恨みつらみは忘れて 混沌のさなかでも秩序を守っていたい わたし自身の矜持を保つために 水に流して

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春一番とともに 兄帰るの報せ 東の街から実に7年の任期を経て帰ってくるのだ この間じつに長いようでいて短かった 飼っていたメダカはすべて死んでしまったけれど 蘭鋳はやたら大きく育ち 広かったはずの水槽の中で優雅に尾鰭を揺らしたり 泳いだりしている もう幾つになったのだろう 5歳年上なのだから本当はわかっているのだけど時が止まったままなのだ わたしのことを駅で見つけてくれるだろうか 髪が伸びて もう日焼けもしていないわたしを見つけて 昔のように撫でてくれるだろうか

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神さまがいてもいなくても 声だけ聞こえて姿が見えなくても 誰かを信じさせなければいけないとか 上手く説明しなきゃいけないとか そういうことはないので大丈夫 また何処かで会うかもしれないその時に ちゃんと愛せますように

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慣れているはずの痛み こんな器官無くて良かったのに あなたもいつかはわかるわよと言われて 未だにわからない きっと永遠にわからない

動物も育てられないのに どうして人間なら出来る なんの欠落もなく完璧に育つと思った?

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遠方より友人来るとの報せを受ける 来月が待ち遠しい!

 

今日も昼食を食べなかった どうしても食べるのが面倒くさい時があるという 掃除や洗濯なんかは出来るのに 食事をとるのが煩わしいというのは一体どういうことなのだろう

 

美容院の予約

夫の制服を繕うこと

義兄夫婦の娘に雛祭りのお祝いを送ること

 

爪が少し伸びているので 切って磨くのを忘れないように

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数年前 初めて本物のミモザをみたとき とても嬉しかったのを今でもよく覚えている 断食月のすこしまえ 砂埃が舞う乾いたアフリカの土地を訪れ そのホテルの近くに生えていたそれはまるで光の滝のように黄色く輝き 枝垂れていたのだ

 

突き抜ける高い空の青 ひんやりとした土の壁 シャンデリアが煌めく食堂では大きな蝿がぶんぶん飛びまわり 笑顔がすてきな背の高い給仕が果汁100%のフレッシュ・オレンジジュースを運んでくる(アルコールを控えていたので これしか飲むことが出来なかった!) それから旅行中 ほぼ毎日のようにプールで泳いだ そうするべきだと思ったから

 

当時わたしはミモザを伝聞でしか知らなかったので その愛らしい黄色の花がミモザである確信が持てなかった それからまた数年後に今度は日本の生花店の店先に並んだものを見て 同じアカシアの仲間であることがわかった 今年もひと枝手に入ったことを嬉しく思う

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“Hello again” で憶えていた歌は “Alone again” の聞き違いだった なんとなく前後の流れからおかしかったけど あまり気にしていなかった そんなことあるはずないって思っていたから