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酒場の片隅で話されていた言葉に 耳を澄ました 時計の針は午後10時をまわったところ 彼らはひそやかに 唇を震わせるように話す それは雪深い 冬が厳しい国で暮らす人々独特の話し方なのだ

わたしは火酒を嘗めながら 柔らかい白身の魚を食べた この街には港が無い 灯台はあるのに 海がないので 魚はみな 水槽に入れて運ばれてくる 見たことは無いけれど たぶんそうなのだと思っている

男たちは 額をくっつけるようにして 会話を続けている 小さいけれど 美しい発音の声で それはまるで いつか観た 短い白黒の映画のようだった