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かつて祖父母が暮らしていた借家の裏には ちいさな柘榴の木が植えられており 秋になると ごつごつとした臙脂色の石のような実を結んだ 爆ぜた実の中から零れだす血の雫のような粒 酸っぱくて渋いのに その一粒ずつに秘められた甘さが 透きとおった深紅の色が好きだった

 

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上記の記事を書いた泉女史は 白昼社の編集者であり 10年来の友人である お互いにこの映画を美しいと感じるのは かつてヴォトカの盃を交わしたふたりにとっては自然なことでないか

 

セルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色』は アルメニアの詩人 サヤト・ノヴァの生涯を描いた作品であるゆえ かの地の文化や歴史 また風習も知らずに全容を理解することは不可能である しかし 極東の国で生まれ育ち 一度もコーカサス地方を訪れたことがないにも関わらず この映像や音楽 言葉までも 不思議と懐かしさを感じさせた それは ブラウン管のテレビや囲炉裏 おはじきやカセットテープのように かつて使っていたもの 見聞きしていたものに憶える哀愁ではなく 燃える火を眺めているときに感じる安堵に似た郷愁である 同時に 繊細な装飾の施された寺院や 完璧な色彩で構成された硝子窓を見たときの感動というよりは 国境近くで打ち棄てられ 漆喰と煉瓦の壁だけが遺った廃墟が醸しだす 絶望に似た背徳的な美しさを感じた それは(ほとんど検閲でカットされたが)作中に描かれた政治的メッセージを理解出来ぬためなのだろうか

 

COLOR OF POMEGRANATES/PARADJAN

COLOR OF POMEGRANATES/PARADJAN

 

 

祖父の死後 引き払われた借家は 取り壊されて駐車場になった 柘榴の木も切り倒され わたしは最後にその実を食べたのがいつであったか もはや思い出すことすら出来ない