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戻ることを願う日々がないことは幸福であるのか 何処まで行っても平坦な道が続くこの街から見えるいちばん高い山に登ったことはない

 

学校を出たら 公務員になった幼馴染と結婚して 自転車で通える距離にあるスーパーへパートタイムで働きながら 自分が通ったのと同じ幼稚園 小学校へ子供をやり PTAの役員と地域の行事 それから家と車のローンに追われながら 盆と正月には夫の実家で過ごし やがて子供が中学生になれば 駅前の学習塾へ行かせ 地元の進学校へ入りなさい 国公立のいい大学を出て いい会社に勤めなさい それが幸せなのだからと言い聞かせ 反抗期と思春期と倦怠期を織り交ぜ 日々を重ねていけたなら 佳かったのだろうか 遠くに山が見える町から出ることもなく

 

いつでも今日は明日のため 明日は未来のためにあった どうして今を楽しんではいけないの わたしは今日も明日もその次もずっと笑っていたいのに

何処まで戻れたとしても上手くやれなくて でも 何かを為さねばならぬとしたら それは今しかない

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