682

「一体幾つまで生きたら 満足したと思えるのかしら」と 彼女はキヌアのサラダをスプーンでさらえながら溜め息をついた 「女性の平均寿命って85歳くらいでしたっけ」わたしは素早くスマホで検索をかける「あった 87.05歳です」「あと50年じゃない!やーね まだまだ足りないわ」

わたしはなにも答えなかった むしろ 答えられなかった あと50年以上も生きなければならないとしたら 確かな計画を立て 工程どおりに生きなければならない 安定した職業に就いた人と結婚し 健やかな子供を何人か産み 彼らが幸せに暮らせるように 存分な愛情と潤沢な資金をもって 育て上げなければならない 自身や夫が怪我や病に倒れないよう 注意して ああ 最期は成人した子供やたくさんの孫たちに看取られ 寿命を全うしないといけない なんて 考えただけでもうんざりする

痛いのも苦しいのも嫌だけど どうして死ぬことを選べないんだろう あと50年かけても きっと彼女は満足しない そういうひとだから いつも