1987

チョルノーブリの原発事故が起きた次の年の春にわたしは産まれた。名もなき極東の地で、まだ雪に覆われた町の湖のほとりで、満月の夜だった。船乗りだった祖父の顔を知らない。海辺では鰊が獲尽くされて、父は炭鉱へ出稼ぎに行き、時折届く現金書留だけがその消息を知らせていた。海豹の毛皮なんて見たことがない町で子供たちは春に生まれて、年寄りは寒くて長い冬に死んだ。幼なじみのひとりが馬車に轢かれて死ぬまで、ひとはみな冬に死ぬと思っていた。ひとも、獣もみな冬に死んで、白い雪になると信じていたのだった。