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わたしは あの頃の記憶を消したいのだろうか 顔も 名前も 仕草も どんどん忘れていってしまう そのことを薄情だと責めないでほしい 好きだったひとやもの 場所のことだって忘れていってしまうのだから
嫌いになったわけじゃない ただ戸惑ってしまうだけ どんな顔で逢いに行けばいい? わたしはきっとあなたを見つけることが出来ないと思う すごく近寄らないとひとの顔の区別がつかないほど目が悪くなってしまった 約束の場所なんて決めなくて本当によかった 今のわたしにはきっと辿り着くことが出来ないから ごめんね あなたのことは本当に好きだった でも今は誰のこともそんな風には思えない あの頃 あなたのことが本当に好きだった 夏も冬も 昼も夜も 人生で一番誰かを愛していた あの頃の記憶が どんどん消えていってしまう 見る見るうちに空き地が住宅街へと変貌してゆくように 今やわたしは もうわたしですらない