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愛の夜が燃える前に冷めて 雨の夜明けにわたしは窓から逃げ出した 玄関の靴は諦めて 黒いエナメルのチェーンバッグを肩にかけ 5階の部屋からベランダ伝いに 足を滑らせぬようしっかりと手摺を握りしめて非常階段まで行き そのまま下へ降りた 何食わぬ顔で

始発電車が出たあとの駅で まだ少し眠そうな顔をしている駅員が 裸足で歩く若い女を見ても気に留めなかったことは 少しだけ救いだった それは大人であることの自由に似ている