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20年前に祖父が死んだ 或いは25年前にわたしと双子の姉が産まれた病院で 姉が子供を産んだ わたしは飲みかけていたアブサンの瓶を戸棚へ片付けて 着の身着のままタクシーに乗り込むと 森の奥にある病院へと向かった
街の産院で産めば良いのにというマトカを説得して 姉がどうしてもと この場所を選んだのには訳があった 生まれて初めて呼吸をしたときの空気は 生涯ずっと肺に残り続け 死の瞬間に吐き出されるという迷信を信じているからだ 「それにね どの部屋にも朝の光が差し込むのよ 産科の棟は東向きだから」と マンションを探しているようなことを言っていたけれど笑いはしなかった 彼女の夫は去年の夏に東のほうへ出稼ぎに行ってまだ戻らないのだ