1966

『手を握るだけで指から全身に稲妻が走るような感覚 でも頭のなかが真っ白になることはない 快感に痺れ続けて眩暈がしても 意識の上にあらゆる事情が漂白出来ない染みのように点々と拡がり やがて 眼を閉じていても現実が見えてくる それはしばしば雨上がりの夜の街に似て 煌めいているのだった』

20代の頃、わたしはしばしばこのような感覚に悩まされた。恋をするたびに-いや、本当に恋に落ちたのは一度きりだった-心はずきずきして、高揚していた気持ちはやがて浮遊感から離人感になり、ひとりで勝手に抑鬱状態へ陥っていた。誰かを愛しても、きっとうまくいかないと思い込んでいたし、今もそう思っている。誰かと間違って結婚しなくて良かったとさえ思うし、事実、婚約していたのは、それほど好きではない男だった。けれども、彼といるときは憂鬱にはならなかったので、健全な心の関係があったのだろう。今となってはどうでも良いことではある。