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さいころにいた神さまのことをよく覚えていない 裏の家に住んでいた神さまの姿をついに見ることはなかったけれど 後年は南の方にあるホスピスで過ごしたという話だったので 間違いなく人間だった 村で起きた大抵の不思議な事件は風や子供の悪戯だったし 悪霊に取り憑かれたと噂されていた女は 村一番の頑固者と言われた男と恋仲になって以来 すっかり人が変わり とても評判のいいおかみになった 男は頑固なままだったけれど別に大したことではなかった  人間しかいなかった 今だってそうだけど


弔うことも祈ることもなくなり あとは静かに眠るだけ まだ冷たい土の匂い 朝露に濡れた草花 はるか遠くの丘を汽車が警笛を鳴らして走る あのひとと最期に交わした口づけの味を思い出そうとして もう顔も覚えてはいないことに気づいた

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