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性交と博打しか娯楽がない糞田舎は 本当に牛舎から牛の糞の臭いが漂ってくる 麦秋とは美しい季節だ 見渡す限り黄金色に実った麦畑が青空に映えて 聴こえてくるのは鳶と雲雀の歌声 陽射しは心地よく 時折風が肌を滑る 牛糞の臭いを漂わせながら すぅ と それがわたしの故郷の初夏 季節労働者ではないので 年がら年中出稼ぎへゆく 都会に肥溜めはない 麦畑もない ごう と 音が聞こえて見上げると巨大な航空機の影

書を捨てて街へ出たけれど 娯楽といえば特に変わらない それを教えてくれたのは24歳上の少し変わった男だった 彼の話した意味が本当にわかったのは10年経ってからだった 都会の逢引宿でわたしはただ慾求を満たすため 或いは性慾を発散するためだけに男と交わる ことの後で報道番組を見ながらふと 聞いてもいない身の上話を語り出す男の生まれは 西の方の糞田舎 何処まで歩けども続く牧草地帯 有明の海を海苔が漂う