1606

Mは部屋に入るなり靴下を脱ぎ きちんと二足合わせてくるくると丸めて はぐれないようにしてからソファに投げ捨てた 子供のときからそうしているのかしらと思うと 180cmの大男が少しばかり可愛く見えた

浴室でMの身体を洗いながら わたしは父のことを思い出していた 父はMよりもずっと小柄だったし 姿から彷彿させるものは何も無かったけれど 泡の中からまっすぐに勃起した性器を舐めながら まだ 子供だったとき 滅多に遊んだ覚えのない父と ーいまでは顔もよく思い出せないがー 交流した記憶を辿ると そこは浴室だった 黒い碁石のような丸いタイルが敷き詰められた床はところどころ目地が黒ずみ モルタル天井は隅の方に蜘蛛の巣が張っていた湿気った浴室 水色の浴槽は琺瑯製だった