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彼のことを忘れるべきかと思ったけれど、10年間毎日、祈るように愛したひとのことを、今更どうやって忘れようというのか。愛の反対は無関心だという。わたしは関心を失うことも、憎むことも出来ない。ただ、いつか、私より先に旅立つことがあったならば、骨が欲しいと思う。忘れていなければ彼はわたしに骨をくれるはずなのだけど。きっと、白くて脆い、珊瑚礁のような骨。骨をひらうとき、男なら葬儀場のひとが喉仏を先に探してくれていたことを思い出す。それ単体で見れば、なにかわからないような小さな白いかけら。そういえば祖父の骨は納骨堂へは納めず、今も仏壇のところにある。墓地にも入れたと思うので、あれは分身なのかもしれない。